政府は、観光立国推進基本法に基づき、観光施策の基本方針や目標を定めた観光立国推進基本計画を今年度末に改定する。改定を前に、現行計画(2012~16年度)に掲げられた主な目標の現時点での達成状況を見てみよう。訪日外国人旅行者数の急増に伴ってインバウンドに関する目標は多くの項目を前倒しで達成したが、日本人の国内観光旅行に関する目標は、未達成の項目がほとんどだ。
インバウンドは、訪日プロモーションの継続的な実施、査証(ビザ)の要件緩和などの効果に加え、一定期間継続した円安傾向などを追い風に市場が拡大。訪日外国人旅行者数の目標は1800万人だったが、15年には1974万人を記録した。消費額も、15年に3兆5千億円に達し、目標の3兆円を上回った。
参考指標として設定した「訪日外国人のゴールデンルート(東京、千葉、大阪、京都)以外の地域における延べ宿泊者数」2400万人泊の目標も、15年に2823万人泊を記録して達成。「訪日外国人旅行者に占めるリピーター数」1千万人程度の目標も、東アジア市場を中心にリピーターが増加し、15年に1159万人に達している。
一方で、日本人の国内観光旅行は、市場の縮小傾向をくい止めることを目的に数値目標や参考指標を設定したが、ほとんどの項目が達成できていない。主要な目標、1人当たりの年間宿泊数については、15年に10年以降では最高値となる2・27泊を記録したが、目標の2・5泊との差は依然として大きい。
国内観光旅行の宿泊数の目標が達成できない要因について観光庁は、基本計画の諮問機関、交通政策審議会観光分科会への説明資料の中で、(1)有給休暇の取得率が5割を下回る水準で推移し、長期の休暇が取れない状況が続いている(2)1世帯当たりの平均所得金額の減少傾向が続いている(3)パック旅行や宿泊費、交通運賃の物価がやや上昇している―を挙げている。
日本人の国内観光旅行に関する参考指標では、「年間に国内宿泊観光旅行をまったく行わない国民の割合」(旅行ゼロ回層の割合)を40%程度に抑える目標を掲げたが、15年が46・8%となるなど未達成だ。ただし、若年層(20~29歳)に関する参考指標では、1人当たり年間宿泊数が15年に3・18泊を記録し目標の3・0泊を達成したほか、旅行ゼロ回層の割合も14年が39・3%、15年が40・2%となり、目標の40%程度をほぼ達成している。
市場全体として宿泊数や旅行参加率が上昇しなかった結果、日本人の国内宿泊旅行の消費額は、15年が15兆8千億円にとどまり、目標とした18兆円には届いていない。地方の活性化に向けて設定した参考指標「三大都市圏以外の地方を主目的とする国内旅行消費額(旅行中支出のみ)」を12兆円に増やす目標も、15年が10兆6千億円で達成できていない。
訪日外国人旅行、日本人の国内観光旅行以外の分野を見ると、日本人の海外旅行者数の目標2千万人は、12年に1849万人を記録して以降は減少傾向で未達成。国際会議の開催件数の目標「5割以上増、アジア最大の開催国」については、計画策定時に指標とした統計基準では未達成となるが、現在、観光庁や多くの競合国が重視している統計基準で見ると、アジア首位の目標は達成している。