宿泊産業の革新を促進、観光庁が施策立案で検討会


観光産業革新検討会初会合

 観光庁は、宿泊産業の活性化を中心テーマとする有識者会議「観光産業革新検討会」を設置した。政府が観光施策の中長期の指針「明日の日本を支える観光ビジョン」(2016年3月策定)に、観光産業の革新、基幹産業化を掲げたことを踏まえ、宿泊産業に関わる支援策や制度を見直す。宿泊産業では生産性向上や人手不足への対応が喫緊の課題となっている。併せて宿泊産業が集積した観光地や温泉地もブランド力の強化が求められている。6月をめどに意見を集約し、施策に反映させたい考えだ。

 政府は、観光ビジョンで「観光先進国」を目指すことを掲げ、訪日外国人旅行者を20年に4千万人に増やすなどの目標を設定した。目標を達成し、国の成長、地方創生につなげるため、「観光産業を革新し、国際競争力を高め、わが国の基幹産業に」という方針を打ち出している。

 観光庁は、旅行業法制の見直しなどと並行して、宿泊産業を中心テーマにした観光産業革新検討会を新たに設置。初会合を12月26日、東京都内で開いた。委員は観光に関わる有識者11人。座長には大妻女子大学教授の玉井和博氏が就いた。

 初会合の冒頭、観光庁の田村明比古長官は、「宿泊業の生産性は、他業種に比べても、国際的に見ても低いとされている。生産性が低いと、従業員に高い賃金を払えず、優秀な人材の確保が難しい。また、宿泊業を中心とする観光産業で構成する観光地、温泉地も、ニーズの変化に合わせた投資が必要だ」と指摘した上で、「観光産業を支援する法律は昭和20年代にできたもので、十分に機能していない現状もある。観光ビジョンの策定を契機にいろいろなことを根本的に変える必要がある。そのためにどういう政策があり得るのか意見を賜りたい」と述べた。

 観光庁は、宿泊産業の課題として(1)国内旅行のトレンド変化や増加するインバウンドに対して旅館の対応が不十分(2)宿泊産業の労働生産性は国内全業種平均の半分程度(3)従業員の不足が慢性化―などを挙げたほか、宿泊産業が集積した観光地・温泉地の課題としても(1)旅館は稼働率が低く、軒数、客室数ともに減少(2)廃業した旅館の放置などで景観が悪化―などを指摘した。

 検討会委員の意見交換では、宿泊産業の現状について、旅館・ホテルの再生に携わるEHS研究所代表の渡辺清一朗氏が「外国人旅行者の受け入れといった問題以前に、『資金に困っている』『利益が上がらない』『後継者がいない』―これらの課題を複合的に抱えている旅館・ホテルが多い。感触としては全体の80%の旅館が債務過多、もしくは後継者問題で困っている」との見方を示した。

 宿泊産業の活性化策のあり方では、日本旅館協会・労務委員長の山口敦史氏(山形・天童温泉、ほほえみの宿滝の湯)が「宿泊業全体に共通する課題はあるが、従業員20人未満の経営、家族経営などが大多数ということを前提に、規模別に対策を講じるべき」と指摘。旅館業の7、8割を小規模施設が占める実態を踏まえた施策を求めた。

 宿泊産業の生産性向上については、官民ファンド、地域経済活性化支援機構・常務取締役の渡邊准氏が「労働生産性を改善するには、売り上げを上げるか、コストを下げるかしかない。企業の戦略は差別化か、低コスト化か。しかし、小規模施設は、規模の経済がきかないので、低コスト戦略は打てない。一方でマーケティングやブランディングに人員を割けず、差別化も難しい。乱暴に言えば小規模施設は統合すればいいのだが、そうもいかないので、実際には地域全体として、面として取り組む必要がある」と提言した。

 国の支援制度の見直しに関しては、東洋大学国際地域学部准教授の徳江順一郎氏が、国際観光ホテル整備法に言及。「約70年前の制定当時の国際観光ホテル整備法は、外国人旅行者への対応を促すことで、客を増やすこともできるという成長モデルの提示だったのではないか。古くなって対応しきれていないが、今の時代に合った成長モデルを提示すべき。規模、ランクなどの分類の中で成長モデルを提示し、リードしていくことが重要だ」と述べた。

 検討会は、宿泊産業、観光地・温泉地の活性化のあり方について、人材育成や投資促進などの観点も含めて議論する。月1回程度の割合で会合を開き、6月に観光庁に対する提言をまとめる。

観光産業革新検討会初会合

 
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