6月1日から子ども手当の支給が始まった。今年度の支給額は中学修了前の子ども1人に付き月1万3千円で、年額にすると15万6千円。今年6月、10月と来年2月の3回に分けて支給される。夏休みの家族旅行商戦真っ盛りとあって、旅行会社や宿泊施設は子ども手当を使って一味違った旅行を家族で楽しんでもらおうと、さまざまな切り口から商品アピールを始めている。
「『次世代を担う子どもの育成』」という、手当の趣旨にのっとり、旅を通じて子どもの情操教育ができる商品を考えた」という日本旅行。子ども手当専用商品という形はとらず、夏休みの家族向け商品のなかで、子供向けのオプショナルツアーを販売している。全国各地で見られる着地型観光素材を利用し、沖縄でのサトウキビ狩りと黒糖づくりや、栃木県の鬼怒川・川治温泉での仲居さん体験など、職業体験や、自由研究につながるような体験ツアーをラインアップする。
0歳児から小学生までの子連れ旅行情報を自社の専門サイト「子どもといっしょ」で提供している近畿日本ツーリスト(KNT)は、子どもの年齢に即した家族旅行の提案を始めた。
このうち特徴的なのは、2歳以上の子どものいる家族を対象とした宿泊プラン。玩具メーカーのタカラトミーが26日に発売する、天井に絵本を映し出せるプロジェクター「おやすみ絵本シアター」を利用でき、客室内で家族全員で寝ころびながら、名作童話や昔話の読み聞かせができる。群馬・草津温泉の草津ナウリゾートホテルや栃木・鬼怒川温泉の鬼怒川温泉ホテルなど全国8施設を設定する。
楽天トラベルも5月31日から同社サイトの家族旅行向けコンテンツで、乳幼児のいる家庭向けコンテンツ「0から3歳児の赤ちゃんとママ・パパのために 赤ちゃんと一緒に旅行」を始めた。子ども手当の用途の1つとして旅行が見込まれることを受けた取り組みで、14の宿泊施設の予約ができる。「家族旅行増大で、観光産業の活性化に寄与できれば」と楽天広報担当。
定額給付金支給時にもスピーディーにキャンペーンなどを打った旅館・ホテル業界。今回の子ども手当に向けても、各地で迅速な動きが。
子ども連れの家族客を対象に、1万3千円分の宿泊割引券「子ども手当券」が抽選で1千人に当たるキャンペーンを実施したのが静岡県の伊豆長岡温泉旅館協同組合。
キャンペーン開始は2月下旬と早かったためか、支給開始が話題となり始めた最近になって、「マスコミからの問い合わせが増えてきた」(事務局)という。手当券の支給は、親子であれば年齢制限に関係なく誰でも利用できるようにした。「例えば、40歳以上の人でも60歳の親と宿泊する場合は対象となる」と幅を持たせた。
加盟施設40軒のうち、32軒が参加。集計によると5月10日現在で約3千件の応募があった。期限は今月10日までのため、応募件数はさらに増えそう。抽選に外れた人の中からさらに抽選し、5千人に2千円相当の宿泊補助券をプレゼントするが、こちらは応募者全員に行き渡りそうだ。
同組合は昨年春、定額給付金の支給に合わせ同様のキャンペーンを実施した。この時は約3カ月で1万6千人を越える応募があった。これに比べれば反応は少ないようだ。子ども手当券という性格上、旅行に使うのをためらう面もあるのではないかとみる。加えて、「開始時期が冬季オリンピックの開催と重なり、マスコミの関心もそちらに向かった。露出度が少なかったことも影響している。キャンペーンはタイミングも重要だ」(同)と苦笑いする。
沖縄県ホテル旅館生活衛生同業組合は15歳以下の子どもを対象にした「子ども手当支給による家族旅行促進企画」を実施している。
4月下旬から開始し、来年3月まで行う。家族旅行で宿泊した子どもに「ハイサイ!沖縄観光大使認定証」を配布する。
子どもたちとフロントの従業員が相互に「ハイサイ」または「ハイタイ」と声を掛け合うと、従業員が認定証にサイン、一定の数に達するとホテルで用意した記念品を贈る。
民主党のマニフェストでは、来年度以降の支給額は月2万6千円、年額31万2千円とされているが、財源の問題などもあり先行きは不透明。また、児童手当、扶養控除、配偶者控除などの従来制度を廃止した上での子ども手当なだけに、子ども手当が対象世帯にどれだけの経済的余裕を与えるのかは見えにくい。
旅行会社関係者の一部からは、「定額給付金の時も消費者の反応は鈍かった。専用商品を出すほどではないのではないか」「多くが貯蓄に回るとも言われており、消費者の動向を見てからプランを出すかを考えたい」などの声もあり、旅行に関する“子ども手当特需”に対しては、懐疑的な見方も依然強い。