「スマートリゾート」とは経済産業省が提唱する新たな観光戦略の名称である。同省は、令和2年3月にデジタル技術を活用して地域の生産性や持続性を高め、高い国際競争力を持った地域を形成することを目的とした「スマートリゾートハンドブック」を公開している。経産省では、観光戦略としてのスマートリゾートを次のように定義している。
「デジタル技術を活用し、これからの人々のニーズ(学びや現地での本物体験への追及等)を満たすサービス提供により地域への誘客拡大、滞在長期化や消費促進、およびそれによる地域の各主体(住民、行政組織や事業者、地域環境・文化等)の持続的な価値獲得や創出を目指す」(スマートリゾートハンドブック・10ページ)。
平たく言えば、観光庁が掲げる「住んでよし、訪れてよしの国づくり」を、デジタル技術を活用して実現していきましょうということだろうか。提言の背景には、デジタルネイティブ世代の存在がある。
デジタルネイティブとは、幼い頃からインターネットやパソコン、携帯電話などに囲まれて育ちデジタルデバイスも日常的に使いこなす人々を言う。特に「ミレニアル世代」「ジェネレーションZ」と呼ばれる1991年~2012年生まれの9歳~30歳を指す。彼らにしてみれば、青空にドローンが飛び交い、すべてのモノを非接触で操作し、AIロボットとジョークを交えた会話を交わすような光景はすぐ先の日常であり、容易に想像できる世界なのだろう。
ところで、このスマートリゾートという概念は海外では「スマートツーリズム」と呼ばれる。特に、EUでは「持続可能性」「デジタル化」「アクセシビリティ」「文化遺産およびクリエイティビティ」等の四つの観点から、「EUスマートツーリズム首都」を選定し、選ばれた地域にはプロモーション活動に関する支援を行うなど力を入れている。
経産省が本事業の名称をスマートツーリズムではなく、スマートリゾートとした真意は測りかねるが、国土交通省の「スマートシティ」のアップデート版が「スマートリゾート」と言えるかもしれない。
スマートシティといえば、いま最も話題を集めているのが、トヨタ自動車が富士山の麓、静岡県裾野市に開発する実証都市「ウーブン・シティ(Woven City)」だろう。人々が暮らすリアルな生活環境の中で自動運転やMaaS、パーソナルモビリティ、スマートホーム技術、ロボット、AI技術などの実証実験を行う。前述したEUのスマートツーリズムの観点から言えば「持続可能性」「デジタル化」「アクセシビリティ」「文化遺産およびクリエイティビティ」のいずれにおいても高い評価を受けそうだ。トヨタが先か、既存のスマートシティのアップデートが先か。町を変え、観光を支えるスマートリゾートの実現に期待したい。