【道標 経営のヒント 201】「隠し玉」で時間稼ぎとサプライズ 九州国際大学教授 福島規子


 1品だしで夕食を提供する旅館では、1人の接客係が2卓、もしくは接客係2人で4~5卓を受け持つことが多い。1席当たりの客数にもよるが労働生産性から考えても最低2名席と4名席の計2卓6名程度は、たとえ個室であっても1人で回してほしいところだ。

 さて、接客係が1人で個室2部屋を担当するには三つの秘策がある。

 一つ目は、1品だしにこだわらず1回に2品ずつ提供することだ。たとえば「先付と八寸」「吸い物と造り」といったように2品を一緒に提供することで個室への入室回数を減らし、2部屋持ちの段取りをスムーズに組み立ててゆくのである。ただし、2品だしをするためには献立のバランスが崩れないよう食材だけではなく味、器などについても十分に検討しなければならないことから料理長の協力は不可欠である。

 二つ目は2部屋目の夕食開始時刻を1部屋目の30分後に設定し、2部屋同時の回し方をシミュレーションしたのちに現場に臨むことである。

 加えて「1部屋目に吸い物と造りを出したら、すぐに2部屋目のおしぼりを用意し出迎えの準備をする」といったように2部屋の進行に関わる作業を献立の流れの中に落とし込むことで、両者の進行状況を同時にコントロールしていく。

 もちろん客の食べるスピードや会話のはずみ具合によって状況が変わってくるため、客の状況を見極め、その後の展開について予測を立てるのが「吸い物・造り」を提供するまでの15分~30分間と言えよう。この時間帯が、2部屋をうまく回せるか否かの分かれ目となる。

 そして、複数の部屋持ちに欠かせないのが三つ目の「隠し玉」である。

 「隠し玉」とは料理提供が遅れそうになったり「客が食べるものが何もない」という状況を避けたりするために係の判断で提供する時間稼ぎ用の一品料理のことである。

 「隠し玉」には、常温でもおいしく腹持ちが良い根菜類の煮物や、酒のあてを複数の豆皿に入れて重箱に納めたものなどさまざまな工夫があるが、いずれも係が客の様子を見ながら自身の判断で提供できるところがミソだ。

 また、「隠し玉」はあえて献立には記載せず、「心ばかりですが」とサプライズ演出として提供することで顧客満足度だけではなく、従業員満足度も向上させる。

 権限を与え「サービスをコントロールしているのは自分である」と従業員に自覚させることで仕事でのやりがいを育み、接客パフォーマンスの高度化も期待できる。

 「隠し玉」効果は筆者が担当する旅館ではすでに実証済みである。労働生産性を上げるためにもぜひお試しあれ。

 
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