【道標 経営のヒント 136】なぜ地元の材料で造るのか 佐々山 茂


 和歌山で旅館の改修をしている。和歌山は「紀州木の国」といわれ県土の77%を森林が占め紀州材が名高い。8年前に食事処を改修した時は集成材の予定を桧の無垢材に替えて同じ予算で造ることができた。床板、柱、梁ともに8年経って良い風合いに味が出てきた。

 木には節があり、製材の仕方で柾目、板目、中杢と千差万別で色合いも白から赤と一つとして同じものがない。ランクは無節、小節、一等材とあり、無節は高く使えないし、小節も予算に合わない。一等材の中で限りなく小節に近い木材と無理な注文をする。長さ4メートルの一枚板の窓台も気に入った木目の板が自由に選べ、生き節のある中杢が美しい大きな梁が印象に残り、後日指名してラウンジの入り口に使うことにした。

 良質の柱は150角よりも100角の方が値が高いのは、節が出ないように若いうちから枝打ちして手を掛けるからだと教えてもらう。製材所に足を運ぶといろいろと知ることができ、思いがけず良い材料にも巡り合える。均一な集成材よりは少々節があっても無垢材の方が木の力を感じられ、空間が生きてくる。

 海が見えるデッキテラスを造ることにした。玄関で下足を取り、お客さまは室内の延長でデッキテラスもスリッパ利用なので紀州材を使うと良いと思った。樹脂デッキに比べ無垢材は見た目も良いし、夏熱くならないが、2から3年ごとに防腐剤を塗るなどメンテナンスには手間がかかる。桧だと高いので、杉の足場板で造ることにした。足場板は厚さ3センチ幅20センチ長さ4メートルで2千円少しと至極安いがれっきとした紀州材で予算は樹脂デッキの半分以下だ。

 かくして和歌山県材に決まり工事が始まった。私と同い年で信頼している棟梁は、仕事のこだわりが半端でない。設計者の思った以上の仕事をして自信ある目で私に語り掛けてくる。大きな梁の継ぎ手は腰掛け蟻継ぎで、在来工法の仕事はよほど手間がかかるがやりがいがあるようだ。

 商業建築は仮設というけれど、今回のロビーや客室も40年ぶりの改修で、これから数十年と次の世代まで引き継ぐはずだ。ネットで製品情報はすぐに手に入るが、足で探した地元の木材を使えば愛着も湧き簡単には消費されずに古くならない。地域に密着した旅館の仕事はやりがいがある。

 
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