前回に引き続き、金融庁から公表された「金融仲介機能のベンチマーク」について紹介しよう。全国の金融機関が対象となっており、皆さまのメイン行の重役も対応に追われていることだろう。当然のことながら、旅館・ホテルに対する取引方針にも影響するので理解しておくことをおすすめする。
各金融機関が自身の事業戦略やビジネスモデルなどを踏まえて選択できる項目を「選択ベンチマーク」というが、50項目にも及ぶので旅館・ホテルに関係の深い項目だけ紹介しよう。
3、「事業承継支援先数」
2015年から相続税の基礎控除の金額が大幅に引き下げられたため、相続税対策を必要とする企業や個人が増えている。特に、国内景気の持ち直しや外国人観光客の増加などにより黒字転換した同族経営の旅館・ホテルは注意が必要だ。
法人株式の相続税は、配当金や利益、純資産の組み合わせによって計算されるが、税額に与える影響は利益が最も大きい。相続を発生してから思わぬ負担に驚かないように、事前に対策することをおすすめする。
全国の金融機関も事業承継対策を商機として、税理士を斡旋したり、節税のための融資商品をすすめたりしているが、メインの金融機関からの提案だからといって鵜(う)呑みにしない方が良い。
事業承継対策の実績やスキルは会計事務所によって大きな差がある。実績ある事務所だからといって報酬が高いとは限らない。いくつかの事務所から提案と見積もりを受けて、信頼できる専門家を選ぼう。
4、「M&A支援先数」
親族に承継予定者がいなかったり、借入金が大きすぎて元本返済が現実的に困難であったりする場合には、旅館・ホテルを売却することも前向きな戦略の一つである。また、業容拡大のために他の旅館・ホテルを承継することも積極的に検討したい。
全国の金融機関でM&Aの支援先数が評価指標になることで、今まで以上に銀行からの提案が増えてくると予想される。有利な額で売却できるのであれば、高級路線の小規模旅館など、時代に合った別の路線を目指していくのも良い選択肢である。
(山田ビジネスコンサルティング事業企画部部長)