【観光立国・その夢と現実 15】特別地方消費税撤廃運動8 小原健史


 旅館業界の過去最大級の政治闘争「特消税の撤廃」の、いよいよ最後の記述である。

 自民党幹事長との最終交渉が決裂し、私は決起大会の場でとんでもない”ウソ”を叫んでしまった。が、それを受けて、各都道府県から上京していた旅館業の仲間の皆さんは地元の国会議員に既成事実をつくるがごとく〔特消税撤廃のお礼回り〕を行った。

 そのことは、12月中旬の国の予算編成の最終段階でピリピリしている国会議員や各省庁の官僚たちをも巻き込んで混乱した。それを収めるがごとくに、連日開催されていた自民党税制調査会(税調)では、特消税撤廃の旅館業界側の議員と、存続の自治省側の議員が激突して最終的には税調幹部の中での調整となった。

 ここで、私的なことを記載して恐縮であるが、ちょうどその頃、私の両親は体調を崩していた。毎週のように地元の嬉野温泉から特消税撤廃運動に上京する私の姿をみて、兄から注意を受けた。「健史、お前が特消税撤廃運動で頑張っているのは分かるが、両親が病気で、特にお袋は肺炎でかなり悪い。それを押してでも上京するのはいかん!」と押しとどめられる。しかし、この運動にまさに命を懸けていた私は「兄ちゃん、申し訳ないが、いよいよ撤廃運動も最終段階にきました。責任者の私が行かんと示しつかん。お願いだから上京させて下さい!」と必死の懇願をした。しかし、兄は頑として首を縦に振らなかった。特消税撤廃運動の責任者は、最後の場面では闘いの場の東京にいることはできずにいた。

 全旅連本部と嬉野温泉の間で電話で連絡を取りながらイライラする毎日。全旅連に電話する。「もしもし小原ですが…」。電話を受けたのは何と当時の稲葉全旅連会長である。「稲葉会長、大変申し訳ありません、○○君はいますか?」「いやあ、本部要員も事務局員も皆、特消税撤廃で出払っている。○○君は、東京滞在が長引いたので、今、パンツを買いに行ったよ!」。それを聞いて私は申し訳なさで嗚咽(おえつ)が!(本当に、申し訳ない!)。

 最後の最後は、税制調査会幹部で環境衛生議連の幹部で京都出身の伊吹文明先生から〔市町村への配分があるので3年の期間を設け、平成8年に特消税は撤廃する〕と決定した。

 その連絡を自社の社長席で聴いて「やったあ!」と思い切りデスクを右手で打ち付けたが、数日後、私の右手はグローブのように腫れあがった。

 この特消税撤廃の勝利で私は、何ものにも変え難い大きな教訓を得た、それは〔人は、根性を決めて努力に努力をすれば、人間が決めたことは人間の手で変えることができる〕ということである。

 さて、これで、永い永い闘いの幕が降りた。旅館業の悲願であった〔遊興飲食税・料理飲食等消費税・特別地方消費税〕は、70年の歳月を経て、また、北海道から沖縄までの旅館経営者や全旅連青年部、そして、女性経営者たちの手で、その総力戦で勝ち取ったものである。署名運動は、吹雪や炎天下の中で100万人以上を獲得し、全国の旅館の客室には「逆さFOCUS」を置いた、そして、何度となく東京で多人数の決起大会を開催し地元の国会議員に〔特消税は、消費税との二重課税で不公平だ!〕と強烈に訴えた。

 また、各都道府県の旅館ホテル組合でもさまざまな撤廃運動を繰り広げていただいた。改めてこの紙上を借りて厚く厚く御礼を申し上げます。

 われわれ、特消税撤廃対策本部では、奇跡的な勝利を収めたこの闘いを記録に残そうということになり〔誇りへの闘い〕と命名した真っ赤な表紙の記録誌を作成した。

 このような二重課税で差別的な税制を旅館業界の総力を上げて撤廃したのにもかかわらず、現在では〔ホテル税〕という怪物があちらこちらで出現している。なぜ、徴収しやすい旅館やホテルからだけ徴収するのか? 私には分からない。 旅館やホテルからのみ徴収する不公平なホテル税の正当性を示してほしい。示せないはずである! 観光立国を唱える今、余計な税の障壁を掲げるのは誠に愚かなことだと思う。あの特消税撤廃運動は何だったのか?

 私は妻や家族に折に触れ言う。「もし私があの世に行く際には、特消税撤廃の赤い本を一緒に旅立たせてくれ!」と。

 (佐賀嬉野バリアフリーツアーセンター会長)

 
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