【観光業界人インタビュー】日本旅行業協会(JATA)理事長 志村 格氏


日本旅行業協会(JATA)理事長 志村 格氏

JATA(日本旅行業協会)の役割

業界のスタンダード上げる

「旅の安全・安心」提供も

──JATAという団体をどう見ている。

 「積極的な活動を行っている。普通の団体のように政策提言もするが、『ツーリズムEXPOジャパン』などのプロジェクトをやっていて、今年の『ツーリズムEXPOジャパン』には18万人以上が来場した。旅に行きたい、旅に行ってもらいたいという皆の気持ちが結晶したものであるが、新たな旅行需要を創造する上でJATAの役割は大きい。豊かな森をつくる『JATAの森』や東北復興を支援する『JATAの道』など観光を通じた社会貢献も行っていて、素晴らしい」

──旅行業界の現状をどう捉えているか。
 
 「日本の旅行会社の数は1万社ぐらい。ずっと横ばい状態なので、一見すると安定的な業界なのだが、その背景にはいろいろな情勢の変化がある。情報化もその一つで、インターネットの普及により従来型のパッケージ旅行や単なる手配はネットエージェントに市場を奪われ、旅行業代理業が大幅に減少している。旅行者層は国内も海外も団体客から個人客へシフトしているので、個人のいろいろなニーズを開拓する必要性もある。旅行業界がそういった変化に十分付いていっているか、あるいは、そういう変化を主導しているかというと必ずしもそうではない」

──今、JATAが取り組むべき課題は何か。

 「喫緊の課題は、『旅の安全・安心の提供』だ。2012年に関越道の高速ツアーバス事故があり、今年1月には軽井沢のスキーバス事故が起きた。頻発ではないにしろ、バス事故がなくならない。『安心』というのは『安全だ』と思う心の状態だ。消費者に『バスツアーは危ない』というイメージがまだあるとすれば、旅行業が安全と安心を十分に提供できていないということだ」

 「情報セキュリティへの対応も急いでいる。情報漏えいを防ぐにはネットから独立したシステムにする、Eメールを使わないなどの方法があるが、あまり現代的ではない。情報漏洩をなくすことも必要だが、完全には防げないので、保険に入るなど、起きた場合の被害を最小限にするようなやり方も旅行業界内で検討している」

──国内旅行市場の成長性をどう見る。

 「日本は少子高齢化が進んでいるが、それは観光にとって悪いことばかりではない。今のお年寄りはとても元気だ。物事をよく知っているので、旅行先での通り一遍の説明やありきたりな経験では満足できない人もいるわけで、シニア層の新しいニーズに対して価値あるサービスを提供できれば、国内旅行はまだまだ伸びる可能性がある」

──国内旅行需要を創造するために必要なことは。

 「れまでは1泊2日の旅行が多く、2日とも移動日だから、職場旅行等ならその中で宴会を1回組めばいいというような企画のパターンだった。今後、連泊を増やすことが重要で、2泊の旅行を提供するとなると中1日のプログラムを考えなければならない。スポーツや文化などの観光コンテンツを充実する必要がある。旅行会社はこれまでもコンテンツを発掘し、ストーリーに磨き上げて、流通に乗せる仕事をやってきたのだが、今後はDMOや地域と連携して、地域の目線でそれを充実させることが重要になってくる」

──急伸している訪日インバウンドへの対応策は。

 「一言で言えば、マーケティングだ。JATAでは旅行業者の売上高や景況感などの調査をしているが、インバウンド消費の18%しか取り扱っていない。今誰がどこに旅行しているかを把握して、何を求めているのかということを研究しなければいけない」

──理事長に就いておよそ半年。改めて抱負を。

 「JATAは、業界団体として旅行業界のスタンダードを作ることが基本だ。バス事故との関係で言えば、日本バス協会など関連する組織と一緒になって安心・安全のガイドラインやその手続きなどを検討している。インバウンドを考えれば、中国人旅行者は日本にだけ来ているのではなくて、その他諸国も多く行っている。そういうグローバルな競争の中でやっているわけなので、サービスの提供についても世界水準というものを意識しなければいけない」

 「気候変動問題やIoTといったグローバルな課題も旅行業との関わりを明らかにしていきたい」

【しむら・ただし】
1956年生まれ。1981年、東京大学法学部卒業後、運輸省(現国土交通省)に入省。観光関係では、観光地域振興部長や審議官、次長などを歴任。2013年に新関西国際空港常務取締役。今年6月20日から現職。

【聞き手・板津昌義】

日本旅行業協会(JATA)理事長 志村 格氏

 

 

 
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