2020年に全世界で大きく拡大したコロナ禍は、日本の観光産業に深刻な打撃を与えた。コロナ禍に見舞われる前、我が国は総力を挙げて観光立国政策を進め、人口減少に直面する我が国の各地域も、観光客増加を通して交流人口を増やすとともに、将来的な定住人口増へつなげることを目標に地域活性化を進めてきた。
2010年代に入って、「街歩き」「散歩」の人気が高まったことも観光振興にとって追い風となった。中でも、東京都心から1時間程度でアクセスできる地域として、古い情緒の街並みや文化遺産が残る埼玉県川越市や神奈川県鎌倉市が人気を集めている。観光客によるゴミのポイ捨ては、美観や衛生環境を損ね、住民との摩擦も引き起こす。
また、ゴミのポイ捨ては地域資源の喪失をもたらすことがある。たとえば、栃木県足利市で2021年2月から3月にかけて発生した大規模な山火事では、オンラインゲーム「刀剣乱舞」の「聖地」として知られる御岳神社の建物の一部が焼失した。同市は「たばこの不始末が原因と推定される」との見解を発表した。足利市の山火事は、オーバーツーリズムが深刻化している地域に、ゴミのポイ捨てによる地域資源保全への脅威に留意する必要性を示唆している。
オーバーツーリズムが地域にもたらす問題は、当該地域に縁もゆかりもない多くの外来者が特定の時間帯に継続的に集中することで引き起こされる。コロナ後は、消費が爆発的に増加するとの予測もあり、これまで観光客の過度の集中に悩んだ地域では、その問題が再び深刻化する懸念がある。
地域活性化を進める上で、今後も観光振興が重要なテーマであり続けることは間違いない。住民の理解と協力を得るためには、観光客の過度の集中の緩和や地域資源の保全を担保する方策を打ち出すことが欠かせない。
オーバーツーリズムは、地域資源の保全と持続可能な地域づくりをいかに両立させるかという根源的な問題を提起している。地域に継続的な関わりをもつ関係人口の増加を図りつつ、ステークホルダーとの対話を深めることを通して住民の理解と協力を得て、観光客数の増加だけに頼らない地域づくりを進める必要がある。貴重な地域資源を次世代へ継承しつつ、持続的な地域づくりを実現する叡智がいま問われている。