観光関連産業において知的財産権はネガティブなイメージがなかっただろうか。例えば、有名な事例では次のようなものがある。 ①昭和51年5月26日東京地裁判決:漫画キャラクターを無断で観光バスに使用していたところ原作者より訴訟を提起されバス会社が敗訴したもの。②昭和62年3月25日神戸地裁判決:ホテルにシャネルの名称を使用していたところ、権利者より裁判を提起され、ホテル側が敗訴したもの。③平成15年8月25日東京地裁判決:ホテルチェーン加盟契約をしていた被告が加盟契約終了後も当該ホテルチェーンの登録商標を使用していたことから、商標権者より訴訟を提起され敗訴したもの。④昭和45年4月30日大阪高裁判決:著作物の(他者による)無断使用に関して事業主体が実質的な支配(管理)及び営業収益をあげていることから責任主体となってしまったもの。
これまで観光関連産業では知的財産権というと上記のような事例をあげて、知的財産権を侵害しないよう注意するという内容になりがちだったかと思われる。
だがしかし、知的財産権はイノベーションを促進し、市場の秩序維持、産業や文化の発展に寄与する機能が(賛否あるが)あるはずであり、ビジネスの阻害要因とのみとらえることは一面的な考えと思われる。
昨今の様々な技術革新はあらゆる面で観光に影響を与える一方、観光客数のみを追求することにも限界があるのではないかと思われる。そこで、新しい情報技術を用いた新しい観光を開発していくと考えるとするならば、それには知的財産権の活用が有効ではないか。実際、旅行アプリに関する特許出願は増加しているし、ドローンで有名なDJI社は「ドローンを利用した仮想観光(特許第6172783号)といった特許を出願している。勿論、安易に全てデジタル化・機械化するべしという教条主義(著者はそれを「オールマシーンドクトリン」と呼んでいる)は妥当でなく、人が介在した温かみのある観光も重要である。したがって、観光関連業として、これまで培ってきた各種ノウハウを結集して様々な知的財産権による自社ノウハウ・技術・ブランド・知識・さらに地域の持つコンテンツ等々の保護を試みてビジネス展開を強化(差別化)してゆくこと、観光に関して特許を取得しつつある各種IT企業等と連携してゆくことは必要ではないかと考えられる。知的財産権は、ノウハウ等の見える化及びライセンス等により様々な連携ができることも忘れてはならない。
以上のように、観光のイノベーションを促進し、差別化を図りつつ収益の改善とさらに取得した権利により外部との連携を試みるという観点からも、観光関連業において、知的財産権の活用を考えることは重要であると思われる。