【竹内美樹の口福のおすそわけ 230】思いがけないおもてなし その1 竹内美樹


 先日、社員旅行で「湯あそびの宿下呂観光ホテル本館」にお邪魔した。事前に長坂正惠女将と打ち合わせをさせていただき、筆者を含む幹部数名のみ隣接する「しょうげつ」に宿泊することになった。

 まずは全員で本館を訪れた。出迎えて下さったスタッフに、われわれの荷物はどうすれば良いか尋ねると、ここでお預かりするとのこと。二つの建物は館内でつながっているが、せっかくなので正面玄関からご案内したいので、後ほどお送りすると申し出て下さった。

 われわれが本館を出ると、そこには思わず写真を撮りたくなるような、レトロな雰囲気の送迎バスが。本館も高台にあるのだが、さらに高い所に上っていく。正式名称が「今宵(こよい)天空に遊ぶ しょうげつ」というだけあって、宿の窓の向こうには、まさに天空から眺めているかのような絶景が広がっていた。長い廊下を通って館内を移動するより、バスで山道を登って宿に入った途端、いきなり素晴らしい眺望に出会う方が、数倍感動的だ。わざわざバスで送って下さったのは、おもてなしの一つであった。

 「しょうげつ」の夕食は料理茶屋での会席料理だが、やはり全員そろって食事をすべきと、われわれも本館でいただくことに。こちらの夕食は、専用のいろりテーブルで食す「あぶり会席」。食事処(どころ)を訪れると、入り口ではずらりと並んだシイタケが出迎えてくれた。好きな物を選んで、自分で採るのだという。思いがけず、ちょっとしたキノコ採り体験が楽しめた。席に着くと、箸袋にシイタケのおいしい食べ方が書いてあった。いしづきは、好みの大きさに割いてから焼くといった段取りが書かれていて、とても親切。これもおもてなしの一つと言えよう。

 お献立は、同館オリジナルの「炙(あぶ)り焼き」を中心とした会席料理。先附は、焼茄子(なす)・長芋素麺(そうめん)・才巻(さいまき)海老を、おだしのジュレでいただくサッパリ冷たい一品。長芋の上に載せられたうずらの温玉は、黄身だけの丸い玉で、味わいをプラスするだけでなく、かわいらしさの演出にもなっていた。

 お献立が記載された紙に「郷土料理」と書かれていたのは朴葉味噌(ほおばみそ)焼き。主役は下呂特産品の蒟蒻(こんにゃく)と豆腐で、青唐・白ネギ・占地(しめじ)が添えられている。特製味噌と共に朴葉に載せ、卓上コンロで焼いていると、ふたの隙間から味噌が焦げる香ばしい匂いが漂い、口福な気分になる。

 炙り焼きのメインは飛騨牛のロースと肩ロース。異なる部位を食べ比べられるのもうれしい。黒毛和種の中でもサシの入り方が最も美しいと言われるだけあって、見た目もきれいなこの肉、とろける味わいだが、意外と脂はサッパリしていて口に残らない。

 他にも、飛騨マイタケや大きななめこの入ったマス鍋やお造り、冷やし枝豆茶碗蒸しなどたくさんのお料理をいただき、すっかり満腹に。その後、日本三名泉の一つ下呂温泉につかり、幸せな夜が更けていった。

 翌日の思いがけない朝食については、次号をお楽しみに!

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

飛騨牛

椎茸

朴葉味噌焼き

 
新聞ご購読のお申し込み

注目のコンテンツ

第37回「にっぽんの温泉100選」発表!(2023年12月18日号発表)

  • 1位草津、2位下呂、3位道後

2023年度「5つ星の宿」発表!(2023年12月18日号発表)

  • 最新の「人気温泉旅館ホテル250選」「5つ星の宿」「5つ星の宿プラチナ」は?

第37回にっぽんの温泉100選「投票理由別ランキング ベスト100」(2024年1月1日号発表)

  • 「雰囲気」「見所・レジャー&体験」「泉質」「郷土料理・ご当地グルメ」の各カテゴリ別ランキング・ベスト100を発表!

2023 年度人気温泉旅館ホテル250選「投票理由別ランキング ベスト100」(2024年1月22日号発表)

  • 「料理」「接客」「温泉・浴場」「施設」「雰囲気」のベスト100軒