高知県を代表する料理と言えば、やはり「農山漁村の郷土料理百選」に選ばれているカツオのタタキと皿鉢(さわち)料理を思い浮かべる。先日、北海道の札幌第一ホテルで、思いがけず「えぞ皿鉢」をいただいた。創業65周年を迎えた同館では、かなり昔から提供していると米澤佳晃社長から伺った。それもそのはず、がんらい皿鉢料理は、祭礼の際神様にささげたお供えを、参加者も共に食す「直会(なおらい)」という儀式に端を発しているとされ、神事の最後に大皿に盛られた料理を共食するこのスタイルは、全国的に存在していたのである。
自由な土佐人の気質が表れた高知の皿鉢料理は、厳格なルールはないが、一尺三寸(39センチ)以上の大皿に、刺し身、カツオのタタキ、寿司と、揚げ物・煮物・酢の物などの「組み物」を盛り合わせるのが一般的とされる。
一説によると、宴会や法事などの際、一つの大皿で料理を出せば、片付け時間が短縮され女性たちも一緒に杯を交わせるから、呑兵衛の土佐人に受け継がれているのだという。何とも豪快ではないか。
だが、高知県民とて、いつもこうしたハレの日の料理ばかり食しているワケではない。普段はどんなモノを食べているのか? その一端が分かるのが、「高知家イチオシグルメガイド」という冊子。おもてなし大好きな高知県民が、県外から訪れる人に勧めたい飲食店を選ぶ「食の県民総選挙」を県主催で行い、投票総数2万5478票から選出された54店舗が掲載されているのだ。
筆者が高知に行くと必ず訪れる「鳥心本店」も、本町店と共にこのガイドブックに掲載されていた。
宮崎県発祥とされる「チキン南蛮」、実は高知県民のソウルフードでもあるそうだ。前者は揚げた鶏肉を甘酢にくぐらせタルタルソースをかけるのに対し、後者は甘酢にオーロラソースなのだ。同店の人気ナンバーワンは、やはりチキン南蛮定食だそうで、大きなモモ肉1枚が大盛りのサラダの上にドォ~ンと載った圧巻の一皿。ナイフで切れば、肉汁がジュワッと出て来る完成度の高さとこのボリュームで、スープとご飯もついて950円。夜も同じ内容と価格という良心的な店だ。
筆者のイチオシは、モモ肉1枚の唐揚げに、酢醤油とネギタップリの薬味が載った「酢だれ」。中華で言えば油淋鶏だが、コチラはムチャクチャ葱だくで、タレがかかっていても負けないくらい衣がパリッパリ。
新メニュー「足唐揚」もたまらない。塩コショウやニンニクで味付けしたひな鶏の骨付モモ肉を、皮がパリっとなるまで揚げたもの。シンプルだが、鶏の旨味が怒濤(どとう)のように押し寄せる。
幕末の志士坂本龍馬も、鶏好きだったようだ。京都には龍馬が通った水炊きの店が現存するし、命を落とした近江屋事件の際も軍鶏を買いに行かせていたという。鶏料理は昔から、土佐っ子のソウルフードなのだ。志国高知、歴史も料理も、まっこと奥が深いぜよ! また行きたいな!
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。
チキン南蛮
酢だれ
足唐揚げ
えぞ皿鉢