先進7カ国首脳会議(G7サミット)が5月19日から広島市で開催される。世界経済や経済安全保障、気候変動、エネルギー問題、人工知能(AI)などの重要課題が山積している。その上にロシアによるウクライナ侵攻、中国による軍事的・経済的威圧、「グローバルサウス」と呼ばれる新興国・途上国の著しい台頭などがあり、G7サミットの意義低下と日本の国力の著しい低下による「主導力」不足が危惧されている。
今回のG7サミットの意義はともあれ、サミット開催地における観光振興効果を考えることは重要だ。日本でのサミット開催は今回で7回目。1~3回目はいずれも東京・元赤坂の迎賓館が主会場であった。
4回目(2000年)は、当時の小渕恵三首相の強い思い入れで沖縄開催になったが、小渕氏は開催前に亡くなり、森喜朗首相が後を継いだ。沖縄県名護市で新たに建設された「万国津梁館」が主会場になり、国が空港から会場までの高速道路を整備し、その後の観光振興のためのインフラ整備になった。サミットを契機にホテルが「量重視から質重視への転換」を図って、国際的リゾート地へと発展する足掛かりになり、泡盛やかりゆしウエアなどの地場産業振興にもつながった。
5回目(08年)は北海道洞爺湖の「ザ・ウィンザーホテル洞爺」を主会場にして開催された。サミットでは環境・気候変動問題が主テーマだったが、北海道庁は食と観光を世界に売り込むために尽力した。サミットには中国や韓国、アフリカ諸国の首脳も招待されており、メディア関係者が多数同行した。
サミットによる観光振興効果を考える上で、各国共に多数のメディア関係者が同行し、情報発信を行う点が特に重要だ。その結果、08年の道産食品の輸出額は262億円であったが、22年には1500億円に達している。併せて北海道の豊かな自然や観光魅力のPR、アイヌ文化の紹介にも尽力した結果、来道外国人観光客は18年度に311万人になり、08年度の4倍以上になった。
6回目(16年)は三重県志摩市賢島の「志摩観光ホテル」で開催された。三重県はサミットを契機にした「伊勢志摩ブランド」の確立に尽力し、サミットによる県内への直接的な経済効果だけで483億円と試算し、19年には三重県への入り込み客数と観光消費額が過去最高を記録したと公表している。また全ての市町で県民参加のクリーンアップ作戦や花いっぱい作戦を展開し、地域の誇りを醸成する機会になった。
7回目の今回は、広島市南区宇品島の「グランドプリンスホテル広島」が主会場になる。宇品島は道路橋1本という立地で警備のしやすさで主会場に選ばれた。被爆地での開催であり、各国首脳に原爆資料館を視察してもらい、平和の尊さや大切さをアピールする機会になる。サミットのメディアセンターで広島の自然環境や伝統文化や特産品の紹介を行うとともに、メディア向けのツアーも始められている。大きな会議の実績を今後のMICE誘致につなげていきたいとのこと。
サミット開催地はそれなりに観光振興効果を受けている。願わくば、サミットにおいて「観光」そのものが主要テーマになる日の来ることを祈り続けている。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)