【私の視点 観光羅針盤 375】新たな観光立国推進基本計画 吉田博詞


 3月に交通政策審議会観光分科会の第46回会合が開催され、「観光立国推進基本計画」の計画案が有識者会議で大筋合意された。閣議決定が行われ、最終決定となる予定である。前回の計画は2020年までの目標を掲げていたが、コロナ禍で観光需要の見通しが不透明なこともあり、議論を中断していたものが再開され、観光需要がコロナ前に戻るとされている25年度までの3カ年の計画として策定されるものとなる。観光政策の方向性として「持続可能な観光」「消費額拡大」「地方誘客促進」の三つのキーワードに留意し、「持続可能な観光地域づくり」「インバウンド回復」「国内交流拡大」の三つの戦略を掲げているのが特徴だ。

 その中でも、大きく二つのポイントに注目したい。一つ目は「持続可能な観光地域づくり戦略」が1番大きな主眼に置かれたことだ。サステナブルツーリズムでうたわれているところの、地球環境への配慮だけでなく、地域に根付いた観光資源を活用しながら地域の自然や文化を保全し、住民に配慮した観光振興を行うことで観光の担い手が誇りや地域への愛着を持ち、観光地の魅力も高まる好循環の創出をしていくことが大事だと、国の戦略の最重要テーマに置かれたという点は大きな前進だと感じる。トレンドとしてのサステナブルツーリズム促進でなく、最重要政策として掲げられたものと理解している。

 二つ目は量から質への転化である。これまで掲げられていた訪日外国人旅行者数は優先度が下がり、訪日外国人旅行消費額単価20万円(19年比25%増)、訪日外国人旅行消費額5兆円の早期達成とし、19年実績4.8兆円だった過去最高の消費額を超えるという目標が掲げられた。高付加価値で単価アップを目指し、その展開において地方を軸に進めるという点が加速していくポイントも注目したい。観光需要の再開により、一部地域では既にオーバーツーリズムの問題も再燃し始めている中で、新たに目指すべきゴールを価値転換していることは大いに注目したい。

 この計画が今後の観光政策の中心に据えられて動くことで、コロナ禍を経た日本の観光がより地域の持続性に積極的に関与していくモデルにアップデートされていくことになるだろう。これらを成し遂げるにはコロナ後のビジョンが業界関係者だけでなく、広く多くの人々、特に各地域の住民にも浸透し、共通の価値観として推進されていくことを期待したい。業界そして各地域の人々が成し遂げていく、大きなゴールとして動けることになれば、より多くの人を幸せにできると考えている。新年度にあたり、各地域でこの最重要政策を共有し、自身のまちをどのようにリンクさせるかの議論をしてみるだけでも大きな前進となるだろう。ぜひ皆さんの地域でも、まずは関係者で一度熟読してみてもらいたい。

(地域ブランディング研究所代表取締役)

 

 
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