5月25日のテレビ番組で「観光魅力度ランキングで日本が世界1位」というニュースを目にして、てっきりフェイクニュースだと錯覚した。実際には5月24日にスイスのシンクタンク「世界経済フォーラム(WEF)」が2021年版の旅行・観光開発指数ランキングを公表し、日本が世界ナンバーワンと位置付けられていた。
WEFは07年以来2年ごとに「旅行・観光競争力指数レポート」を公表してきた。
ビジネス環境、安全・保障、健康・衛生、人的資源・労働市場、情報通信技術、旅行・観光の優先度、国際的開放度、価格競争力、環境的持続性、航空インフラ、陸上・港湾インフラ、観光インフラ、自然資源、文化資源などのさまざまな指標に基づいてデータを指数化しランキングを行ってきた。日本は09年の総合ランキングが25位、11年22位、13年14位、15年9位、17年に4位に躍進し、19年も4位であった。
WEFはパンデミック発生、気候大変動、ウクライナショックなどに基づいて、21年版では「旅行・観光競争力(Competitiveness)」から新たに「旅行・観光開発(Development)」に力点を置き直し、「持続可能で弾力性のある未来の再構築」をテーマにして旅行・観光の持続可能性(sustainability)と弾力性(resilience)を重視する指標を見直し、ランキングを行っている。
21年版では全世界の117の国・地域が対象で、総合ランキングのベスト10は第1位が日本で、以下、米国、スペイン、フランス、ドイツ、スイス、オーストラリア、英国、シンガポール、イタリアの順。とはいえ、ベスト10の国々の指数評価は僅差であり、例えばスイスが第1位と位置付けられても不思議ではない。
現にスイスは五つの大項目のうち、二つの大項目で第1位である。一方、日本は二つの大項目で3位に位置付けられているだけだ。
日本は小項目の鉄道サービスの利便性1位、公共交通機関の利便性1位、15歳~24歳のニート(未就労)率の低さ1位、殺人発生率の低さ2位、大規模なスタジアムの数3位などで評価されているが、気候変動への対応107位、ビザ要件の制約104位などで重大な課題を抱えているにも関わらず、世界ナンバーワンになったのは不可思議だ。しかもこの2年間はコロナ禍の長期化で旅行・観光が停滞し、顕著な成果を挙げていない。
WEFのランキングでは欧州諸国が世界ナンバーワンを占めてきたが、欧州諸国はパンデミック、ウクライナショック、エネルギー問題などのために従来型のマスツーリズム志向から持続可能で弾力性のある観光志向へと大転換を図りつつある。
そのため陰謀論的にみるならば、旅行・観光分野で最も単細胞的な国である日本を世界ナンバーワンとおだてて、従来通りの「観光の量的拡大志向のインバウンド観光立国」を推進させ、「持続可能で弾力性のある観光立国」に向けての国家デザインの構築を阻害しようとしているのかもしれない?
いずれにしても、日本は世界の大転換に対応して、大胆かつ周到に観光をめぐる国家デザインの再構築を図るべきだ。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)