コロナ禍という国難を抱える中で自民党の総裁選が行われている。河野太郎氏、岸田文雄氏、高市早苗氏、野田聖子氏が立候補しており、これらの候補者は総裁選に勝利すれば、日本国の内閣総理大臣に就任するのが確実にもかかわらず、安倍晋三元首相に対する配慮、忖度(そんたく)ばかりが目立ち、日本国が抱える内憂外患に対する危機感が希薄すぎるために失望を禁じ得ない。
日本はいま数多くの解決困難な内憂外患を抱えている。まず内憂では、国難としてのコロナ禍の収束は容易ではなく、さまざまな変異株の出現に対応してワクチン接種の徹底を図る必要があるが、国産ワクチンがないためにワクチン獲得を十全に行う必要がある。
コロナ禍で苦しんでいるさまざまな業界の業績回復のための方策を講じるとともに、数多くの失業者に対する支援も必要になる。さらにコロナ禍でより顕著になったさまざまな社会的・経済的格差の是正が必要だ。また、地方衰退に歯止めをかけることが不可欠であり、第1次産業の振興、地域の民産官学の協働による観光振興、医療・介護体制の充実化、再生可能エネルギーの活用が必要。
さらに、総人口に占める高齢者の割合が29%になり(2040年には35%)、世界一の高齢者国家としての社会保障に万全を期すとともに、若年層に対する教育支援や就職支援も重要である。今後は改めて、教育立国や科学技術立国を図る必要がある。
外患では、米国と中国の覇権争いが激化しており、日本は米国との同盟関係を重視しつつも、中国との良好な関係の維持を図る必要がある。ロシアとの関係も北方四島問題で緊張をはらんだまま全く進展していない。
北朝鮮は日本の内憂を見透かしたかのようにミサイルを日本海に向けて何度も発射している。韓国との関係についてもほとんど進展のないままに緊張関係が継続されている。台湾問題や尖閣問題については中国軍部の動きが懸念されている。台湾や尖閣の軍事的有事の際には中国と敵対することになるために外交力の強化が不可欠である。
さらに、米国軍の撤退に伴うタリバンによるアフガニスタンの制圧によって国際的緊張が高まっており、国際テロの活発化が危惧されている。日米豪印による「自由で開かれたインド太平洋戦略」は重要であるが、中国や東南アジア諸国との関係維持も不可欠である。
スイスのIMD(国際経営開発研究所)はさまざまな指標に基づき「世界競争力ランキング」を公表している。日本は1989~92年に1位、96年まで5位以内だったが、97年に金融システム不安で17位に転落、それ以後も順位が低下し続け、2020年にはついに34位に下落した。アジア諸国の順位と比べると、(1)シンガポール、(5)香港、(11)台湾、(14)カタール、(20)中国、(23)韓国、(27)マレーシア、(29)タイなどの後塵を拝している。
要するに日本はもはやさまざまな分野で国際競争力を失っており、厳しい現実認識に基づいて、日本の未来をグランドデザインできる政治家が必要不可欠になっている。コロナ禍以上に深刻な「日本衰退の病巣」摘出が必要である。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)