【私の視点 観光羅針盤 244】旅育推進キャンペーン 北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授 石森秀三


 政府は約1兆7千億円を投入して、観光需要喚起策「Go To キャンペーン」を実施予定であった。しかし国会で委託費用をめぐって紛糾し実施が滞っている。一方、北海道は7月から23億円を投入して、「観光誘客促進道民割引事業(どうみん割キャンペーン)」を実施予定。

 観光事業者への支援策として、道民による道内旅行代金の最大半額を助成。1人1回最大5連泊5万円分の利用が可能で、回数は無制限。適用期間は来年1月末までで早い者勝ち方式である。

 北海道が国に先んじて「どうみん割キャンペーン」を実施するが、その財源は国の臨時交付金を充当の予定。近年、大きな災害が起こって、観光産業が大きなダメージを受けるたびに、巨額の税金が投入され、観光需要喚起策が講じられている。今後もコロナ禍の長期化だけでなく、地球温暖化に伴う気候劇症化による大きな自然災害の発生が危惧されている。

 観光産業はフラジャイル(虚弱な、壊れやすい)体質を抱えており、自然災害、感染症、戦争・紛争、経済不況などの影響を受けやすい産業だ。日本の観光産業は今後、災害や事故などの緊急事態が発生したときに、企業が損害を最小限に抑え、事業の継続や復旧を図るための「事業継続計画(BCP)」を本格的に策定する必要がある。

 コロナ禍で「旅行は不要不急」と決め付けられたことによって、今後優秀な若者が就職の際に観光産業を忌避する可能性が高まっている。優秀な若者が観光産業に集まらなければ、観光産業の未来は暗いものにならざるを得ない。観光・旅行業界は今こそ一致団結して「旅育推進キャンペーン」を行うべきである。

 日本では、2005年に農林水産省主導で「食育基本法」が施行され、食育関連の諸事業が展開されている。子どもたちが豊かな人間性を育み、生きる力を身につけていくためには、「食」が重要であり、食に関する知識と食を選択する力を習得し、健全な食生活を実践できる人間を育てることが「食育」の目的。教育の根幹である「知育・徳育・体育」の基礎として、「食育」が位置づけられている。

 食育も大切であるが、それ以上に「旅育」が重要である。非日常の時空間を旅することによって、未知の世界や未知の人々や未知の物事に出会う。そのような未知との出会いを通して、子どもたちは新しい知識を得るとともに豊かな人間性を育み、生きる力を身につけていくことができる。私は20年以上前から「旅育推進法(仮称)」制定を提唱している。

 大きな災害や災厄が生じるたびに巨額の税金投入によって観光産業を維持し続けることは困難であろう。一時的に観光需要が回復しても、次世代に大きな財政的負担を強いることは明らかだ。

 旅行が必要不可欠であることと、子どもたちにとっての「旅育」の大切さをアピールするために、観光・旅行業界は一致団結して「旅育推進キャンペーン」を実施し、「旅育推進法」制定に向けて国民運動の展開を図ることが必要不可欠であろう。

 (北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

 
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