4年に一度の統一地方選が終わった。国民一人一人がそれぞれなりの考えに基づいて投票を行った結果、全国の地方自治の新しい体制が決まった。新体制の首長や地方議会は少なくともこれから4年間の全国各地における地域づくりについて大きな責任を負うことになる。
今回の統一地方選でより鮮明になったのは、市町村長選や市町村議選における無投票当選の増加であった。首長や地方議員のなり手不足の深刻化が現実化していると言える。人口減少時代を迎える日本の各地域は今後相当に厳しい諸課題を背負うことになる。各地域は独自に地域の特色を生かしながら厳しい時代に対応していくことが求められている。
北海道の赤平市で市長選挙が行われたが、現職市長が市役所の前企画課長に大差で敗れる事態が生じている。現職市長が推進した炭鉱遺産ガイダンス施設の建設の進め方が不適切という批判を浴びて、1期のみでの敗退になった。
赤平では1918年に炭鉱が開坑し、60年の最盛期には人口が6万人近くになったが、94年に最後の炭鉱が閉山し、現在は人口が約1万人に減少。赤平市は、全国唯一の財政再生団体である夕張市と同様の旧産炭地であり、市の財政は厳しい状態が続いている。
花卉(かき)栽培などに力を入れているが、人口減少に歯止めがかからないために炭鉱産業遺産を活用した観光振興にも注力している。しかし市民の行政サービスへの期待は多様化しており、「炭鉱遺産活用阻止」を公約に掲げる市議候補者も立候補していた。そういう状況の中で現職市長の落選が生じている。
今後は民産官学の協働によって地域資源の持続可能な活用を図り、人口減少時代の諸課題を克服していくことが必要になっている。
私はバブル経済の真っただ中の80年代末に提唱された「砂浜美術館」を高く評価している。高知県の大方町(現在は黒潮町)では89年に「私たちの町には美術館がありません。美しい砂浜が美術館です」というコンセプトの下で「砂浜美術館」がスタートした。地方で大きな箱モノが派手に作られる中で「美しい砂浜が美術館です」という発想は新鮮だった。
館長は沖合にいるニタリクジラで、波と風がデザインする砂模様(砂紋)、浜辺に流れ着く漂流物などを作品とみなし、各種のイベントを行いながら今日に至っている。温暖な風土の下で花卉栽培などの農園芸業、水産業(カツオ一本釣り)に加えて、天日塩や黒砂糖(サトウキビで作る)などの特産品づくりにも励んでいる。
何でもかんでも政府や自治体に依存するのではなく、地域住民自らが貴重な地域資源の持続可能な活用を図りながら、自律的に地域づくりや観光振興を進めていくことの大切さを改めて認識し直している。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)