新年度が始まった。2019年度には皇室典範特例法に基づいて、202年ぶりとなる今上天皇の譲位と皇太子徳仁親王の即位(5月1日)が予定されている。皇位継承を受けて、元号法に基づいて元号が「令和」に改められる。「令和」の典拠は『万葉集』といわれており、初めて漢籍ではなく日本の古典から選定された。英訳は「Beautiful Harmony(美しい調和)」と公式に定められた。
「美しい調和」を意味する令和は観光立国時代にふさわしい元号である。日本政府は16年3月に策定した「明日の日本を支える観光ビジョン」において、2020年「訪日外国人旅行者4千万人、消費額8兆円、地方部での外国人延べ宿泊数7千万人泊」などの数値目標を掲げた。目標達成期限を1年後に控えて、特に地方誘客や消費拡大に向けた多面的な取り組みの強化が必要不可欠になっている。日中韓・北朝鮮を含む東アジア情勢は混迷を深めており、観光国際交流の深化による「美しい調和」の実現が求められている。
国土交通省海事局は、海事観光推進をエンジンにして「観光先進国の実現」という政府目標への貢献を図っている。海事局は昨年9月に「海事観光戦略実行推進本部」を設置し、今年3月末に「海事観光の戦略的推進」について取りまとめを行い、公表した。
それによると、海事観光のポテンシャルを最大限に引き出すために次の三つの視点を定めている。それらは、(1)海事分野の特性を生かした地方誘客・消費拡大への貢献(2)海事観光分野における受け入れ環境整備のさらなる推進(3)海事観光分野における多様な魅力の発信強化。
今回、海事観光分野で地方誘客・消費拡大への具体的貢献が打ち出されている。(1)地方誘客を実現する広域周遊の実現(船と他交通モードとの連携による地方送客等)(2)富裕層の誘致に向けた環境整備(スーパーヨットの活用による消費拡大等)(3)離島へのアイランドツーリズムの推進(インバウンド船旅振興制度の創設、需要増に対応した新規観光航路の設定等)(4)コト消費の拡大(海事観光コンテンツの磨き上げ、マリンチック街道の新規認定、海のナイトタイムエコノミーの実現等)。
さらに受け入れ環境整備(旅行者がストレスなく快適に海事観光を満喫できる船舶や関連施設の環境整備)や多様な魅力の発信強化(JNTOとの連携をはじめとした積極的プロモーション)も推進される。
海事局は主に海運・船舶・船員に関する事業を所管しているが、昨年7月末に観光庁次長であった水嶋智氏が海事局長に就任してから直ちに推進本部が設置され、スピーディーに海事観光の戦略的推進が図られていることは高く評価できる。「令和」時代にふさわしい海事観光の加速化に大いに期待している。
(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)