【私の視点 観光羅針盤 152】ラスト・サムライを悼む 石森秀三


 私の畏友・盟友であった小林天心さんが3年間の闘病の末、6月17日に永眠された。享年73歳。

 天心さんは長野県飯田市の生まれで、同志社大学文学部新聞学専攻卒業後に株式会社プレイガイドツアーに入社し、常務取締役営業本部長を最後に97年に退社。翌年からニュージーランド政府観光局日本支局長に就任し、05年に同局退任。同年に観光進化研究所を設立。09年に亜細亜大学経営学部(ホスピタリティ・マネジメント学科)教授に就任し、15年に退職。

 その間、02年から日本エコツーリズム協会事務局長、07年から東京都小笠原観光プロデューサーなどを兼務するとともに、07年からは北海道大学大学院観光創造専攻で「観光産業戦略論」を講じ、12年から北大観光学高等研究センター客員教授を務めた。

 天心さんはプレイガイドツアー時代に企画商品に関する業界の最高栄誉賞「ツアーオブザイヤー」を3度受賞しており、旅行企画の頂点を極めた筋金入りの旅行業のプロフェッショナルであった。

 一方で、天心さんは日本人の旅行のあり方をより良くしたいという思いを強く抱いていた。90年代初頭に旅行業仲間と語り合って「地球にやさしい旅行人宣言」という10カ条を創って、JATA(日本旅行業協会)に採択するように提案したこともあった。とにかく曲がったこと、権力におもねることが大嫌いで、航空会社や大手旅行会社にもひるむことなく、鋭く正鵠を得た論陣を張り、旅行業の発展に大きく寄与したと高く評価されている。

 私が知る天心さんは古武士の風格を持つ大人であり、自分自身の主義主張や原理原則を明確に持っていて、決してぶれることはなかった。そういう意味で、天心さんのことを「ラスト・サムライ」と評する人もいる。常に行動力にあふれた人であり、自分の経験を重んじる現場主義の人でもあった。一方で天心さんは驚くべき読書家であり、あらゆるジャンルの書物に親しんでいて、広範な知見を有する文武両道の教養人だった。

 07年から北大大学院観光創造専攻で非常勤講師を務めてくれたが、社会人院生たちが最も心酔した教員であり、天心さんを囲んで談論風発する「天心会」が創られていた。非常勤にも関わらず、数多くの院生たち一人一人の悩みを真摯に受け止めてアドバイスを惜しまず、「天心イズム」を次世代に伝授した。いずれにしても、天心さんは日本の観光・旅行産業を誰よりもこよなく愛した熱血漢であっただけに、その喪失は大きく、哀惜の念に堪えない。

 私も発起人の一人になって、「小林天心さんを偲ぶ会」が企画されている。7月25日午後6~8時、東京・永田町「海運クラブ」2階ホールで開催予定。偲ぶ会に関する問い合わせは(株)マイルポストTEL03(5275)2461。

(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

 
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