【焦点課題】東日本旅客鉄道 執行役員 鉄道事業本部 営業本部 宮田久嗣氏に聞く


宮田氏

地域連携による観光流動促進

連携の結節点として役割果たす リアルな拠点をネットワーク化

 ――観光業界の現在の市況をどう捉えているか。

 「コロナ前から業界の構造変化が起こっている。旅行業ではデジタルシフトが始まり、店舗への来店者が減少、コロナ禍でその状況は加速し、リアルエージェントが苦境に立っている。当社ではシニア層に動く兆しが見え始めている。9月7日からは『大人の休日倶楽部ウェブ限定パス』を販売したが、想定以上のお客さまに購入いただいた。ワクチンの接種が進み、政府が11月をめどに行動制限の緩和の方針を打ち出した。いよいよ動ける状況が生まれ、そこに光が見えている」

 ――東北デスティネーションキャンペーン(DC)は終盤を迎えた。

 「コロナの感染拡大が影響し、効果は限定的となったと言わざるを得ない。準備期間から練りに練った企画が変更、中止を余儀なくされている。一方で、乗ることを目的とした『のってたのしい列車』や、スマホ一つで便利で快適な旅をサポートする『TOHOKU MaaS』の取り組みを実施するなど、地域内に新たな流動を創り出した点では一定の手応えを感じている。4~8月に行った特別企画“奥の正法寺 秘佛本尊『如意輪観世音菩薩坐像』御開帳”では、約7千人が参拝した。首都圏各駅で東北の地産品を扱う産直市を開催したほか、当社グループが運営するインターネットショッピングモール『JRE MALL』において東北地域の復興加速を目的にしたプロジェクト『東北MONO』を通じて厳選された商品を販売するなど、常に東北の情報、商品と触れられる状況を作り上げられたことも成果だ。今後は、このレガシーをつないでいく」

 ――東日本大震災時に仙台支社に在籍されていたと聞くが、復興と観光流動の結び付きについて。

 「震災後、復旧した仙石線に初列車が通った際に地元の方が列車を心待ちにしてくれていた。復興号を運行した際、招待した幼稚園児が車内で歌を歌ってくれた。東北には温かさがあり、おもてなしにも表れている。さらなる復興に向け、持続的に経済が回る取り組みを行っていきたい」

 ――地域との連携、取り組みの在り方について。

 「観光資源は地域と一緒に磨き上げていくもの。われわれは、磨き上げはもちろん、モビリティの活用、観光資源の商品化、首都圏への情報発信など、プロセスを踏みながら地域の手伝いを行っている。プロセスから好循環を生むことは観光開発の基本であり、プロセスを回す手段として、『重点販売地域指定』『DC』に取り組んでいる」

 ――管内では23年秋には茨城DCが行われる。

 「まさしく10月から茨城は重点販売地域に入る。ここでまず磨き上げを行う。例えば、自然を満喫しながらの霞ケ浦でのサイクリングなど、心に刺さるコンテンツが必要だ。商品がそろえば、首都圏から近い新たな目的地として気軽に訪れていただけるはずだ」

 ――一方で課題は。

 「鉄道事業者は地域と向き合う宿命にあり、われわれは連携の結節点としての役割を果たす。一例を挙げれば、地元と関係を深めている企画として、『駅からハイキング』がある。地元と駅が協議を行い、どう域内を回るか話し合いながら決める。一方、発信後に集客と結び付かないことが課題である。昨今は、メディアの特性も変わってきた。従来の駅の媒体にSNSを結び付けるなど工夫が必要だ」

 ――管外との連携は。

 「北陸に営業センターを置き、地元とコミュニティを作るなど、最終的に鉄道利用につながる取り組みをしている。北陸にカニを食べに行く企画もこのような場から生まれている。コロナ前は海外でも『ジャパンレールカフェ』を台湾に設けるなど、日本全国の自治体と連携しながら情報発信を共に行ってきた。管外地域とは、情報発信という面では連携の可能性を十分に感じている」

 ――今後チャレンジしたいことは。

 「デジタルを活用してモビリティの利便性を高める中で、旅行をどう楽しんでもらうか。観光型MaaSを開発、展開することは次の観光開発にも生きてくる。また、駅自体を地域のハブとして、情報の拠点、人々の結節点としていく。今年度末ごろには駅構内の新たな顧客接点型拠点となる『駅たびコンシェルジュ』の整備が終わる。駅がネットワーク化された時にどのような有機的なつながりができるかは楽しみだ」

 ――インバウンド分野での今後の取り組みは。

 「政府が掲げる2030年6千万人という目標を前提に、そこに向けた予約システムの一定の整理はできている。今後は、Suicaを含めどう利便性を提供できるかを模索していく」

 ――JR東日本が作る観光流動の未来の姿は。

 「デジタルによる利便性を高めることと、それからそれを観光開発のプロセス、磨き上げのプロセスにフィードバックすること。加えて、リアルな場面での拠点を作り、それをさらにネットワークでつなげることだ。それに尽きる」

みやた・ひさつぐ=1992年入社。仙台支社営業部課長、八王子支社総務部長を経て、2018年営業部担当部長に。JR東日本サービスクリエーション社長を経て今年6月から現職。

【聞き手・長木利通】

 
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