予約とは、お客さまの私共への信頼と商品への期待であると考えています。信頼と期待に値する商品が用意できなければ、次はありません。それだけの覚悟を持って商品を用意し、販売員にも自信を持ってお勧めするよう伝えています。
予約新茶販売を始めて50年近くたつでしょうか。嫁いだ時にはもう恒例となっていました。長年ご予約下さる方々は、ご自宅用だけでなく、季節のお便りとしてもご利用いただいています。先さまも待っていらっしゃるとの話を伺うと、励みにもなります。
仕入れも担当する夫は、お客さまと販売員の期待を背負い産地に向かいます。今年も、生産家の力もお借りし、おいしい新茶が準備できますように。
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毎年、4月、夫は新茶の仕入れで産地へ。仕入れの旅はまず鹿児島から始まり、静岡、宇治へと続きます。桜前線ならぬ新茶前線も、暖かい地方から北上していきます。ただ、桜と違うのは、茶の木は亜熱帯原産、照葉樹林帯の植物なので、あまり寒い地方では育ちにくいという点です。お茶の経済的栽培の北限は、新潟県村上市と茨城県久慈郡大子町を結んだ線とされています。
仕入れの時期、私は店にいて新茶販売の準備と役割分担が決まっているのですが、数年前に一度だけ、仕入れに同行しました。同世代の知人、友人たちが、時間的にもゆとりある生活を送っているのを見聞きするにつれ、健康で働けるのはありがたいことと分かっているつもりでも、還暦を過ぎても仕事に追われるような日々にちょっと疲れも感じていて、「わがままかもしれないけど、新茶の畑を見てみたい」と夫に頼み、思い切って従業員たちに留守を任せ、店を離れました。
霧島(鹿児島県)の茶どころを初めて訪れた私を気遣って、忙しい中、山菜採りと茶畑へ誘って下さった生産家の西順子さん。車の後ろには、孫たちを乗せ、子守りも兼ねながら、広大な茶園を見渡し、この畝(うね)の辺りは「さえみどり」、あっちは「やぶきた」、こっちは「やまかい」「かなやみどり」、ずっと向こうが「べにふうき」との説明に、「え? 葉っぱを見ただけで品種が分かるんですか?」と私。
コツを教えてもらい、手摘みの初体験。澄んだ空気の中、若葉の香りを感じつつ柔らかな新芽を摘んでいると、携帯電話で何やらてきぱきと指示する声が。製茶工場の重油の手配とか。さらに、大勢の茶摘みの人たちのおやつに蒸かしたさつま芋を用意する手際の良さ。何事もさらりとこなすカッコよさ! 私なんか、まだ、まだ…。同い年の順子さんに元気と励ましをもらった旅となりました。
その後、仕事で上京した順子さんに再会した折、小旅行でもと思い、「時間が取れる時期はいつ頃?」と尋ねると、「農作業には百の手間がかかるから、百姓と言う」と返されました。さすが、西製茶の肝っ玉母さん。恐れ入りました。