情報発信などアプローチを
米国は人口3・2億人を有する巨大な国であり、さまざまな文化と言語を背景とする多民族国家である。これまでインバウンド旅行関係者のプロモーションのターゲットは、主に白人やアジア系米国人であった。今回は米国で存在感が増しつつあるヒスパニック系米国人の市場について紹介する。
米国では、米国国内旅行協会(NTA)を中心に、国内旅行関係者が何年も前から、同市場をターゲットとした旅行需要の喚起を実施している。
ヒスパニック系米国人の人口は、2014年時点で約5500万人、人口の17%を占め、2060年には1・2億人となり、約30%を占めるに至ると予想されている。州人口で見ると、カリフォルニア、テキサスでは39%、フロリダでは24%を占めており、さらにロサンゼルス郡では人口の48%を占め、すでに多数派となっている。
米国商務省の調査によると、ヒスパニック系米国人の旅行者は、15年の米国人の全海外旅行者数3279万人のうち15%、うち訪日客数では6・2%を占めている。
JNTOでは、昨年初めてヒスパニック市場の調査を行った。また、ロサンゼルス市とその近郊で、ヒスパニック市場を専門とするツアー造成旅行会社と共同で、小売旅行会社向けに訪日旅行セミナーを実施した。個人手配が多いとされる米国市場の中では、旅行会社の利用率は約42%と比較的高いため、まずは業界向けのアプローチを行った。
ヒスパニック市場の拡大にあたり、旅行会社の担当者からは、訪日旅行商品のラインアップを増やすこと、ツアー造成旅行会社や小売旅行会社への情報提供、また一般消費者向けにはヒスパニック系のイベントなどへの参加により露出を増やすことなどが課題として挙げられた。
訪日旅行商品は、東京、箱根、京都、大阪などのゴールデンルートが中心で、まだまだ訪問先は多様ではない。これはまだまだ日本についての情報が不足していることの証左である。訪日旅行商品の価格帯は、10日間前後で3千~4千ドル程度であり、米国市場の旅行商品の中では平均的価格帯と言える。
こうした中で、成熟市場と見られがちな米国市場においても、いまだ開拓の余地があり、日本の文化性、観光魅力、安全性、ホスピタリティ、アクセスといった基礎的な情報発信に基づく新興市場へのアプローチが必要とされる。
また、ヒスパニック系のいくつかの旅行会社は、米国内だけでなく、スペイン語圏である中南米諸国にも拠点を有している。販売チャネルも米国に限らず、中南米諸国での商品販売を行っているのが特徴で、ウェブサイトもスペイン語で作成されている。つまりこれらの市場へのプロモーションには、英語だけでなく、スペイン語が欠かせず、また旅行者を受け入れる日本側においても、スペイン語表記などの対応が期待される。
米国におけるヒスパニック市場へのプロモーションは黎明期であるが、引き続きJNTOでは米国市場の裾野を広げ、訪日旅行者を増やす活動をしていく。