【日本政府観光局インバウンド最新リポート20】シンガポール市場 アセアン地域攻略の近道 JNTOシンガポール事務所 小林大祐上席次長 


JNTOシンガポール事務所が開設する訪日コミュニティサイト

 皆さんは「シンガポール市場」と聞いて、どのようなイメージを持たれるだろうか。いくつか特徴を挙げるとすれば、国民1人当たりのGDPが約5・3万USドルで、アセアン諸国で次点に続くマレーシアの約5・5倍を誇る“お金持ちの国”であり、人口わずか340万人という小さな市場ながら、年間の延べ海外旅行者数は900万人を超える有数のアウトバウンド大国とも言える。また、アセアン経済のけん引役でもあるシンガポールは、近隣諸国へその流行が波及していく傾向が強く、ゆえにアセアン地域の統括的機能を当地に置く日系企業も多い。

 このように、シンガポールはあらゆる側面でアセアンをリードする先進性を備えていることから、まず同市場を攻略することが、アセアン地域攻略の近道であると言える。

 併せて、同市場における訪日動向の最大の特徴として、リピーター化の進行という点に触れておきたい。2015年の訪日シンガポール人のうち、過去に訪日経験があるリピーターは実に7割を占める。アセアン諸国のそれは4~5割程度であり、同市場のリピート率の高さは際立っている。

 そして、それは訪問地域の分散化へとつながっていく。宿泊旅行統計調査によれば、リピーターの増加に連動して、各地方のシェアも増加していることが分かる。リピーター化の醸成が、ひいては地方誘客の拡大につながることを踏まえれば、同市場を取り込むことの意義は一層大きなものとなる。

 では、どうすれば訪日リピーターの心をつかむことができるのか。リピート回数が増えるほど旅行者のニーズは細分化し深化していくため、常に鮮度の高い情報を幅広く網羅し、各々が欲しい情報を的確に提供することで、新たな訪日意欲を刺激し続ける必要がある訳であるが、その攻略のヒントが、オンラインを活用したデジタルマーケティングにあると筆者は考える。

 JNTOシンガポール事務所では、今年度の新しい試みとして、シンガポール人を対象とした会員制の訪日コミュニティサイトを構築し、同サイトを用いたデジタルマーケティングの取り組みを図っている。同サイトでは、数十万人規模の会員登録による嗜好や属性といった基礎情報に加え、サイト内の行動履歴などの膨大なバックデータを解析し、個々にとって最適化された訪日観光情報を提案、発信する。また、それを基に作成した旅程や自身の体験をシェアしながら会員同士の交流を促進するなどして、シンガポール中の訪日ファンやリピーターが情報と交流を求めて集うコミュニティを形成することを目指している。

 16年は日星国交樹立50周年(SJ50)の年であり、日星双方向での人的交流の促進に向けて各種取り組みを強化しているところであるが、SJ50のその先を見据え、JNTOシンガポール事務所では、先進性の高い市場特性を生かし、アセアン地域のモデルケースとなるような新しいプロモーション活動の取り組みに積極的に挑戦してまいりたい。

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