【日本政府観光局インバウンド最新リポート 95】中国市場 訪日観光の「夜明け」間近 JNTO北京事務所 茶谷晋太郎 所長


春節中約36万人が訪れた兵馬俑(陝西省西安市)。幾重にも観光客

 日中間の往来は、昨年12月の中国政府のゼロコロナ政策からの転換以降、日本政府による入国時検査の導入や中国政府によるビザ発給停止など波乱続きであったが、3月以降、入国時検査の緩和、直行便増便の再開など明るい兆しがある。依然として中国政府による海外団体旅行の解禁の対象に日本が含まれていない(3月末執筆時点)ものの、コロナ前の状況まで今一歩の段階まで来ている。一方、中国国内では、1月の春節期間中の国内旅行者が延べ約3.8億人に達するなど各地の観光地で約3年ぶりのにぎわいを見せ、多くの中国人が久しぶりの観光旅行を楽しんだ。

 中国は約959万人(2019年)の観光客が訪日し、インバウンド全体の約3割を占めるとともに、旅行消費額の多さから、言うまでもなく極めて重要な市場である。しかし、日本向け団体旅行は依然として解禁されておらず、ビジネスや一部の高所得者など限られた方しか訪日することができず、コロナ前の水準に戻りつつある他の市場とは異なり、3月の訪日客数は約3.6万人(19年度比5%)にとどまっている。

 そのため、中国からの観光客の早期の戻りに対する期待・関心の声を地域の観光関係者から伺うことが多い。また、中国の旅行系サイトによる行きたい旅行先には日本が上位に来ることが多く、多くの中国人の方も訪日旅行を渇望する様子がうかがえる。

 ただ、約3年にもわたるコロナ禍での移動制限の副産物として、海外旅行に対する心理的・手続き的なハードルが上がっていること、中国国内の観光資源の再発見や近場での手軽な旅行が進展したこと、越境ECの普及や日本食料理店の拡大など中国国内でも日本と接することができる機会が増えていることにも留意が必要だ。また、タイやシンガポールなど、すでに団体旅行が解禁されている国は中国人観光客を大いに歓迎する姿が報じられている。一方、日本に対してはネガティブな意見もネット上を中心に散見され、「わざわざ日本にまで旅行しなくても」という意識が広がれば、往来が正常化したとしても、コロナ以前の状況に無条件に戻るとは限らない。

 そうした中、日本や各地域が中国人観光客から旅行先として選ばれるためにはどうすればよいか。中国市場の特性を十分に理解しながら、地域の観光資源の磨き上げはもちろんのこと、中国版SNSや在日中国人インフルエンサーの活用による認知度の向上、切れ目のない中国語案内標識や中国版QR決済手段など受け入れ環境の整備、そして地域として中国人観光客を「欢迎光临!」とお迎えする体制を整えることが重要となる。日中間の往来の「夜明け」は間近であるとの共通認識の下、地域の関係者が一丸となった取り組みが期待される。


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