ムスリム向け情報発信の強化を
多民族国家であるマレーシアの経済活動は人口比率23%の中華系がけん引しており、実際、訪日旅行者層も中華系が多数を占めている。
一方、旅行会社へのヒアリングや一般消費者向け旅行博でのアンケートによると、ムスリムの訪日旅行者数も少しずつ増加の兆しが見られている。人口の7割近くを占めるマレー系は、そのほとんどがムスリムといわれており、今後、マレーシアにおける訪日旅行市場の拡大にはムスリムをどう取り込むかが鍵となってくる。
ムスリム市場を開拓する上で、まずイスラム教の文化に対応した受け入れ環境を整えていくことが頭に浮かぶと思うが、日本におけるムスリム対応は年々各所で整備がされており、「Global Muslim Travel Index 2019」によると、ムスリム協力機構加盟国を除いた国のうち、日本はムスリムへの順応度が世界3位と評価されている。また、別の調査では、世界の政府観光局を対象にしたムスリム受け入れウェブサイトに対する評価で、日本は1位となっている。
このように日本におけるムスリムの受け入れ環境は世界的にも評価を得ており、訪日旅行者数も徐々に増加している一方で、当地でムスリム系顧客を扱う旅行会社は、ムスリム対応の食事や礼拝スペースに関する情報が不足しているとの認識を少なからず持っている。実際、ムスリム旅行者の訪日旅行に対する充実度は低く、日本を訪れるムスリム旅行者の規模も欧米や他の東アジアの国々と比べ低い水準にあるのが現状だ。
ムスリム向けの情報が十分に発信されているとはいえない状況の中、誘客拡大のためにはこれまで以上に情報発信の強化が求められている。訪日旅行情報の発信においては、ムスリムであっても、英語でのコミュニケーションが可能であることから、ムスリム向けの受け入れ環境が整備されていることを積極的に発信していく必要がある。このためJNTOでは、各自治体や施設などから協力を得て、訪日旅行を計画するムスリム向け情報提供ツールである「Muslim Guide Website」の情報拡充に継続的に取り組んでいる。
また、同じムスリムからの口コミ情報への信頼度が高く、旅行先選定や旅程作成時の参考にすることも多いことから、当所では、ムスリム向けセミナーを開催し、ムスリム目線で訪日旅行の魅力発信や不安解消に努めている。加えて、ムスリム向けテレビ番組や影響力のあるインフルエンサーを招請し、訪日意欲の喚起を図っている。
世界的に見ても今後ムスリム人口は増加することが予想されている。さらに、ムスリムによる旅行市場規模は2015年時点で世界市場の11.2%を占める1510億ドルと推測され、人口の増加と比例して今後も拡大が見込まれ、可能性を秘めた市場であると言えよう。今後より多くのムスリムの方が安心して訪日旅行を楽しんでいただけるよう、各自治体・関係施設の協力を得ながら、ムスリム向けの情報発信に引き続き取り組んでいきたい。