世界的なウイルス騒動は相当落ち着きを見せつつある中で、日本国内の落ち着きは周回遅れの感が否めない。そんな状況でも旅館ホテルの売買情報がかなり活発に飛び交い始めた。ご時世柄、情報量の割には成約まで至るケースはまだまだ少ないようだが、ニューマネーの供給や債務のリスケジュールに関して昨年、一昨年ほど簡単ではなくなっているのは現実だ。加えて、後継者難や今のうちならまだ間に合うとの判断で、年末や年度末に向けて売買市場がさらに活発になることは容易に想像がつく。
そんな中で買い手側はどんな観点で売り物件を探しているのだろうか。地域や規模、温泉の有無、運営者の処遇については買い手によってさまざまではある。
しかし、商売繁盛の必要最低条件が「お客さまから支持され、愛され、信頼される」ことだとするならば、人の五感(見る、聞く、嗅ぐ、味わう、触れる)で捉えられることがこの必要最低条件を満たせるかという観点は無視できない。現状満たせてなくてもてこ入れをすることで達成できるとすれば十分対象になり得る。そこで、まずは五感を働かせてみたい。
(1)立地
風光明媚であれば言うことはない。近年はやりのグランピング施設は既に風光明媚でないものから淘汰され始めている。
(2)周辺
向こう三軒両隣まで清掃が行き届いているか。特に、従業員や取引業者の通用口の清掃は必須。生ごみや不燃物などの整頓状況も大切。ごみやたばこの臭いが充満したりしていないか。整理整頓や5Sは安全・安心といった危機管理に直結するのでおろそかにできない。
(3)事務所
明るく正しいあいさつが交わされているか。従業員が協力して5S活動を行っているか。当然、従業員トイレの清掃くらいは自ら行っていてほしい。加えて、社長を含め全従業員の行動予定を誰でも確認できるようになっているかも大切だ。
(4)厨房
経営陣や事務系職員との間に壁がないか。床の清掃、什器備品・食器類の整理整頓、冷凍庫や冷蔵庫の管理が十分に行き届いているか。電灯の笠、ダクト、桟など異物が落ちてきそうな箇所の清掃がなされているか。
(5)ボイラー・機械室
整理整頓は言うまでもなく、危険物や工具が誰でも分かるように収められているか。
(6)買い手側の動き
訪問導線や訪問時間に変化を持たせてくるだろう。場合によっては覆面調査もあり得る。入念な定量分析と定性分析が行われることは言うまでもない。往々にして事前の情報戦において売り側が買い側に後れを取ってしまっていることが多々ある。そうならないためにも、ちょっとでもまずいと思ったら、取引銀行は言うまでもなく、昨今、組織変更された中小企業活性化協議会や各地の再生専門家にいち早く相談し、現状を見極め、決断することをお勧めしたい。自力再生ができるならばそれに越したことはないが、現在営業中の全ての旅館ホテルが自力再生ができるわけではないことも事実ではある。人的要因での業界の衰退は見たくはない。
(EHS研究所会長)