人事評価について、3回にわたりお伝えしてきたが、これと密接な関連を持つのが、能力の育成や開発である。
一口に「能力」と言っても非常に幅広いが、ここでは大きく次のように分類したい。(1)業務能力(2)管理能力(3)個性的能力(4)創造的能力―の四つだ。
(1)業務能力とは文字通り、それぞれの現場で業務をとり行うことのできる知識や技能を言う。例えば「チェックイン応対」「料理提供」「予約受け対応」「用度品の発注」といったことができる能力である。これらは言うなれば「定型的能力」であり、手順や方法などをマニュアルに表すことが可能だ。この分野で「能力を高める」とは、ひとまず決められた手順や方法の通りにできるようにする、またできる業務の範囲を広げることを意味する。従って能力育成は、「知識習得=覚える」「技能訓練=できるよう練習する」に主眼を置く。
(2)管理能力はかなり範囲が広い。企画力、計画策定・推進能力、問題解決能力、統率力、部下育成能力、調整能力といったものが挙げられる。職務によっては、これらの一部が「業務能力」として必要とされるものもあるが、どちらかと言えば監督職(現場リーダークラス)以上に求められる能力である。「非定型的能力」であり、業務能力と違って学習や訓練で身に付けることは難しい。世に、これら能力を高めるための研修プログラムなどもいろいろあるが、一朝一夕に養えるものではなく、実務を通じた研さんが基本となる。トップをはじめとする幹部層が、いかに引き締まった組織風土を築けるか、またその中で、いかに望ましい管理のあり方を伝授していけるかにかかっていると言って良い。
(3)個性的能力とは、その人に固有の特技あるいは得意分野を言う。イラストや書芸、音楽といった芸術的才能、司会進行などに生かせる話術、料理や酒に関する知識、また今日的テーマとしてデジタル分野のスキルなど、特化した領域における専門的知識や技能である。「タレント性」と言い換えても良いかもしれない。仕事によっては「業務能力」の一部となっている場合もあるが、属人的という点で、これとは分けて捉える。これまで「○○オタク」などと片付けられていたかもしれない。しかし旅館なればこそ、これは重要な意味を持つ。旅館商売では、人の持つ独自性がそのまま商品力となる場面も多いからだ。金太郎あめのような画一的な人材能力だけでは、能力の総和はあまり大きくならない。だからこれら特技、得意分野を会社として把握しておくとともに、それらを生かす機会(場)をつくることを考えたい。
(4)創造的能力とは、従来と違う新しい発想を生み出す能力、またそれを実現に向けて推進できる能力である。ある意味でいま最も求められる能力かもしれないが、これほど育成困難なものはない。おそらく研修などによって養えるものではなく、処方があるとすれば、日頃の情報収集や社外の人との交流、たくさんの本を読むことであろう。この能力が発揮されるのは、主として新しい事業領域への踏み出し(新市場の開拓や新商品の企画など)、業務改革といった、まさに新たな変革への取り組み場面だ。創造的能力は、創造的経営によって初めて生かされる。
(株式会社リョケン代表取締役社長)