バス乗務員不足解消に向けて、女性と若年層に象徴される新しい「なり手」の創出に向けては、個別の事業者の努力には限界がある。人口構成の変化により国全体が人手不足の状態にある中で、他業種との競争状態が生まれているからだ。
新しいなり手を見つけ出すには、第1に、バス乗務員という職業を想起させ選択肢の一つだと認識してもらうことが必要であり、第2に、給与などの労働条件をはじめとした職業としての魅力づくりを進めていかなければならない。
まず第1の課題。近年、数々の求人メディアが部数を競い転職イベントも数多く開催されているが、これまで、バス事業者の求人(乗務員募集)活動は控えめであった。
路線バスや高速バスを運行する乗合バス事業者の場合は、地域を代表するバス事業者として安定した応募があった。2000年ごろまで、首都圏や京阪神の大手私鉄系バス事業者の乗務員の待遇は極めて恵まれていて、トラックなど他業種のドライバーたちの中には、それらの事業者に転職することを目標とする者も多かったようだ。
さらに、各事業者は自社のバス車両や、会社によっては親会社の鉄道車内あるいは駅などに、無料でポスター類を掲出することもできる。路線バスや鉄道は、沿線においてはそれ自体が有力なメディアだといえる。
その車内や駅に無料で露出できることは大きなアドバンテージであった。ポスターといっても、美しい写真などを使うクリエイティブなデザインというよりは、シンプルなノーティス(告知文)程度のものが多かった。彼らの場合は、これまで「特にがんばらなくても十分な応募があった」といえる。
逆に、中小規模の貸し切りバス事業者の場合は、求人の規模が小さいこともあり、外部の媒体に求人広告を出稿することは少なかった。「社員紹介制度」などの形で、現役の乗務員が仲間の乗務員を紹介すれば礼金を出し、紹介された側には支度金を先渡しする、という程度のことで間に合っていたようだ。
(高速バスマーケティング研究所代表)