【山崎まゆみの「ちょっと よろしいですか」23】自然災害と向き合う 温泉エッセイスト 山崎まゆみ


 自然災害のニュースを見る頻度が高くなっています。日本中を旅している私は、災害のニュースを見るにつけ、各地でお世話になった方々の顔を思い浮かべては、案ずる日々。なにより、その後の風評被害による観光地の皆さんの悲鳴には心が痛くなり、私には何ができるのだろうかと、問い続けてきました。

 先日、その答えになるかもしれない出来事がありました。

 今年の4月で22年目に突入したTBSラジオの看板番組「生島ヒロシのおはよう一直線」が、7月22日の放送で5555回を迎えました。そこでこの日、福島県土湯温泉にある、震災により廃業した宿をリノベーションした温泉ホステル「YUMORI ONSEN HOSTEL」から公開生放送。

 以前よりこの番組にレギュラーで出演してきた私は番組スタッフに福島の温泉地からの放送を提案してみました。

 それは、今年に入り、たびたび、取材で福島を訪ねた際に、払拭(ふっしょく)しきれない福島第一原発事故の風評被害の苦悩を聞かされていたからです。

 パーソナリティーの生島ヒロシさんは、気仙沼ご出身で、東日本大震災で身内を亡くされました。その経験から「震災からの復興」をライフワークにされています。番組プロデューサーの尽力により、記念放送回は、赤坂のTBSラジオスタジオではなく、“YUMORIロビースタジオ”から生放送。早朝5時からの放送に備え、全国からお客さんがYUMORIに泊まり、スタンバイ。当日は50人ほどのお客さんが公開放送に参加してくれたのです。20年以上も生放送をされてきた生島さんは、軽妙な語りでお客さんを魅了し、会場が和やかな空気と笑いに包まれ、一体となりました。

 土湯観光協会の池田和也さんからは、震災から復興を果たした土湯温泉の経緯について話していただきました。温泉熱を生かした新たな産業創作、震災後土湯を離れた民家の空き家対策を講じた街づくりなどなど。その新生土湯の目玉がYUMORIなのです。

 私は放送前に土湯の皆さんから震災から復興までの率直なお気持ちをお聞きしていました。勝手な想像だけで話すわけにはいかないからです。

 YUMORIの渡邉利生さんの言葉が象徴的でした。「大学を卒業する1週間前に震災が起きました。そして1年間の旅館修業を経て、土湯温泉に戻ると、こんなに寂しかったかというほど人がいませんでした。子どもの頃は、お客さんのげたの音で眠れないくらいだったんですよ。温泉地に人がいないことほど、物悲しいことはないんです。旅館の休館日はガランとして、まるでコンクリートの塊です。旅館スタッフでも、業者さんでも、人がいる温泉地が元気な証しだと思うんですね。またにぎわう土湯温泉にしたいです」

 放送日は、人が人を呼んでにぎやかな活気のある土湯温泉になりました。リスナーさんからも「福島の温泉いいですね、応援したいです」という声もたくさん届きました。

 この放送が新聞で取り上げられ、それがウェブメディアにも転載されて、福島の温泉の元気な姿がニュースとして流れたのです。

 私は、本当にうれしかった。

 テレビの影響力は多大なるものですが、耳元で語りかけるラジオは、テレビ以上に人の心をとらえます。
 TBSラジオのスタッフさんとは「また地域を元気にする放送をしたいですね」と話しているんですよ。ご希望があれば、私にお声掛けくださいね。お伺いします!

(温泉エッセイスト)

 
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