心配された東京オリンピック2020も無事終了した。開催すべきか、中止すべきか議論があったが、テレビの視聴率からすれば、開催して良かったという結論に達する。コロナ禍の影響を折り込みつつ、異例ともいえるオリンピック、私たち関係者は肝を冷やす日々だった。開催反対論者の声に耳を傾けながら。
話題の尽きない前代未聞のオリンピックだったとはいえ、外国の評価は高く日本の実行力を驚異的と捉えていた。IOC(国際オリンピック委員会)は当初から中止する気はなく、日本側も追随するしかなかった。一部を除いて無観客の大会、しかも大会前のキャンプ地を提供するホストタウンも、各国の都合でキャンセルされた。どの自治体もホストタウンに立候補し、大きな期待を寄せていたが、残念な結果に終わった。二、三の自治体だけがホストタウンとして成果を上げただけだった。
今回のオリンピックで注目されたのは、47都道府県全てが金メダリストを輩出させたことだ。鳥取県は、女子ボクシングのフェザー級で入江聖奈選手(日体大)が優勝、第1号の金メダリストとなった。米子市の出身で、日体大に入学した。米子市内にあるボクシングジムに小学校2年から入門、ついに頂上に登りつめた。鳥取県米子市も、ついに金メダリストを誕生させたのだ。県民や市民は、大きな勇気と元気をもらったに違いない。子どもへの教育的効果は絶大だ。
もう一つ、沖縄県も鳥取県や福井県同様、金メダリストのゼロ県だったが、空手の男子形決勝で喜友名諒選手が勝利、金メダルを沖縄県にもたらせた。空手発祥の地沖縄から、沖縄県人が歴史を作った。琉球王国時代から始まった空手、県内には約390の道場があり、約1万人が日々鍛錬を積む。これで沖縄へ空手留学する人材が増加するであろう。
喜友名選手が勝利した2日前、私は沖縄県の津森レスリング協会長に電話した。沖縄県出身の屋比久翔平選手(ALSOK)が、レスリングのグレコローマンスタイル77キロ級で銅メダルを獲得、お祝いの言葉を述べる必要があった。この階級でのメダル獲得は、日本人の身体からすれば容易ではなく、快挙だった。「これで沖縄のレスリング人口も増えます」と津森会長。レスリングの銅メダルも沖縄県初、翌日の報道は当然ながら大きかった。
スポーツの力は私たちの想像以上に波及効果をもたらせる。鳥取県米子市にあるボクシングジムが、県民のスターを生んだが、果たしてジムの経営が順調なのかと心配する。県や市の自治体は、零細スポーツクラブやジムを支援し、子どもたちへスポーツ環境を提供する必要がある。少なくともオリンピック種目やインターハイ種目の指導する施設には各自治体は応援すべきで、競技人口増加に協力してほしい。ローマは1日にして成らず。
47都道府県で最も金メダリストを多く出しているのは夏冬含めて北海道の22人で25個だ。ところが、福井県も金メダルのゼロ県だったが、フェンシング男子エペ団体で福井県出身の見延和靖選手が日本チームの一員として優勝した。福井県の隣の石川県が5個、富山県が4個も金メダルを獲得していたのに福井県は縁がなかった。だが、見延選手の活躍は、福井県の子どもたちに夢を与えた。これで全ての県が金メダルを手中にしたのだ。
どの自治体にもさまざまな個人経営のスポーツクラブがある。ゴルフやテニスは経営にそれほど苦労しないだろうが、体操や卓球、柔道や相撲、レスリング等のクラブ経営は容易ではない。スポーツの振興上、自治体がどこまで協力すべきか検討してはどうか。指導者不足で中学、高校のスポーツのクラブ活動が低迷中である。教育効果の高いこの課外活動を活性化させるためには市中にある個人的な施設持つクラブやジムを活用する意味で支援してほしい。この視点がスターを生むのだ。
スケートボードやクライミングのような新種目、これらの練習場も十分ではない。練習場を造る勇気ある自治体の出現を望む。
(日体大理事長 松浪健四郎)