この夏、いかに多くの大学生が地域や企業に分け入ってインターンシップに臨んだことか。読者のなかには送り手側である教職員、受け入れ側となった企業、団体の方々もいらっしゃることだろう。
筆者が兼任する中央大学のインターンシップ科目「観光まちづくり地域創生コース」も、その一つ。母校貢献のつもりで教壇に立ち、今年、9期生を迎えた。
そもそも同科目は、1994年に経済学部で創設された伝統ある正課授業で、のちに履修対象を多摩キャンパス全学部に広げた。各界で経験を積んだ卒業生が客員招聘(しょうへい)され、公務員コースや金融コース、マスコミコースなどコース別に分かれて指導する。文部科学省のグローバル人材育成支援事業に同大学が採択された2014年、海外インターンシップ新コース設置の相談が、筆者のもとに寄せられた。そこで「国際観光コース」を立ち上げ、主にアジアの各国政府観光局などに学生を受け入れていただいたのが始まりだ。
就業体験先には、マレーシア・ペナン州観光局、フィリピン観光省本省、タイ国政府観光庁本庁ならびにアユタヤ支局、さらにマニラやバンコクなどJTB在外支店、ラッフルズなど有名ホテルで就業体験の機会を得て、夏の約1カ月間を学生たちは海外で学び、ローカルの人たちと交流した。
しかし長引くコロナ禍で、渡航もままならない状況が続いたことで、21年度から国内インターンシップに転向。それが思わぬ好循環を生んでくれた。その代表例が、島根県大田市大森町である。
「石見銀山資料館」の仲野義文館長は、鉱山経営における近世史の第一人者で、石見銀山ユネスコ世界遺産登録を支えた1人でもある。その仲野先生のもとで、地域おこし協力隊に従事しながら大学院生として当地の調査研究をしているのが、国際観光コース1期生で大森町に移住した金田郁也氏だ。学生時代にマレーシアやフィリピンなどを地域研究し、卒業後は大手旅行会社に就職。そこから大学院へと進んだ。本連載の第1回でも紹介した人物だ。
かつての教え子が、ゆかりがない地にほれ込んで妻を呼び寄せて根を張った。そして後輩たちに、唯一無二の夏を用意してくれたことが感慨深い。
彼らと実際に町を歩いてみると、地元企業の存在がいかに大きいかを知った。義肢、装具や医療用具を製造する「中村ブレイス」は、空き家再生、まちなみ保存の最前線にいる。
また、ライフスタイルとして「根のある暮らし」を提唱、センスのよい衣類や雑貨を取り扱う「群言堂」は、みがきあげ事業部のなかに編集室が置かれている。発行物「三浦編集室」を読むと、町民の誰もが町の主役で描かれていた。ちなみに「三浦」は、移住者である編集長のご苗字。文筆家として理想的なワークスタイルで、背伸びがない情報発信に、どっしり根っこがあると感じた。
学生インターンシップや長期での地域実習は単位付与を含め課題も多いが、生きた学びにほかならない。とりわけ山間地域の町や村では人との距離が近い分、学生たちの成長ぶりはめざましい。
何よりも金田氏のようなロールモデルが身近にいたことが学生たちをさらに大きく成長させたようで、深く感謝している。
(淑徳大学 経営学部 観光経営学科 学部長・教授 千葉千枝子)