前号の続き。つややかでふっくらして、香り高い新米に比べ、古米は品質が劣るのか?というモンダイ。
実は、江戸時代に入る頃までは、新米より古米の方が高価だったらしい。古米は乾燥している分、水をたくさん吸収するので、新米より炊き上がりの量が多いのだ。つまり、質より量ということだったのだろう。
日本人は、古くから四季折々の旬の食べ物を大切にしてきた。その旬の中でも、まだ出始めの「走り」の食材を、「初鰹(はつがつお)」に代表される「初物」として、われ先にと競って食べたのが江戸っ子たちだ。それゆえ、初物の価格が高騰してしまい、幕府が「初物禁止令」を出したほど。ちょうど江戸の町で庶民にも白米食が広まり、彼らが新米をこぞって食べるようになったと考えても、おかしくないだろう。江戸っ子たちの嗜好が、新米の人気を押し上げたに違いない。
以降、われわれは、古米より新米を有難がって食してきたが、近年、それを覆すようなスゴイ古米が現れたという。「氷温熟成米」である。その味は、通常の新米をはるかにしのぐおいしさらしい。
さまざまな食材に応用されている、この氷温熟成という技術の仕組みはこうだ。もう少しで凍りそう!という氷温域に達すると、生物は凍るまいとする防御反応で、体内から不凍液のようなものを出すそうだ。それこそがうま味の素で、糖類やグルタミン酸などのアミノ酸が含まれている。米の場合、うま味や甘味がアップするのはモチロンのこと、もちもちした食感に必要な弾力性と粘性、保水性なども向上するという。
やっぱり、最新のコメ事情は、昔とチト違うらしい。なので、前号でも触れた通り、新米だからといって水加減をやや少なめにするとは限らないのだ。氷温熟成まで行かなくても、低温貯蔵することで、お米の劣化を防ぐことができ、水分量も調整できるのだそう。
古米が劣るとされていたのは、温度や湿度を調整する貯蔵方法が確立されていなかったから。俵に入れたお米を常温で保管していたら、夏の暑さで黄ばんだり、お米に含まれる脂質が酸化して臭いが出たりするのは当然だ。だが、イマドキの貯蔵方法ならそうした劣化は起きず、水分含有量も年間を通して約14.5~15.5%程度に保つことができるそうだ。
だから、新米と古米の味わいは、昔ほど大差がない。お料理によっては、むしろほんの少し水分が抜けてサッパリした古米の方が向いているものも。例えば東南アジアでは粘り気のないご飯が好まれるが、確かにタイカレーと、もっちりした新米との相性はイマイチだろう。パラっとさせたいチャーハンなども、古米の方が向いている。高級すし店でも、お酢の浸透が良くシャリがベタつかないからと、古米を使ったり新米にブレンドしたりするそうだ。
こうして考えると、日本で食せる米飯料理って、何てたくさんあるんだろう! お茶わんでいただく和食だけでも、銀シャリ、炊き込みご飯、雑炊、おかゆとバラエティ豊富だ。次号に続く!
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。