【体験型観光が日本を変える6】田舎の価値を学べ 藤沢安良


 10月中旬、成田空港から直行便で約13時間、カナダのトロント空港に到着し、さらに140キロメートルを車で約90分、紅葉が例年より遅い見頃を迎えたナイアガラの滝に到着した。いわゆるフォールズビューのホテルの窓からは、アメリカ滝も、カナダ滝も、24時間眺められ、最高の立地であり、景観が観光の大きな付加価値となる手本である。

 送迎の日本人スタッフが当地に25年住んでいるが、治安はすこぶる良く、すりもひったくりも全くなく、それ以上のトラブルもなく、夜間外出しても大丈夫と豪語していた。私も夜に世界各地からの観光客が多い繁華街を歩いたが、風体の怪しい人物も、客引きも、呼び込みも全くなく、歩きスマホも見当たらない。絶景を前にしたらポケモンどころではないのであろう。治安も大きな価値である。

 訪日外国人が10月末で2千万人を突破した。外国人からは「日本人は優しく親切である」「町がきれいで、ルールが守られている」「食事がおいしい」などと高い評価を受けている。しかし、宿泊代が高いとの評価もある。とりわけ、ゴールデンルートと言われている、首都圏、富士山エリア、京都、大阪、神戸の宿泊施設に泊まろうとしても、予約が取りにくい上に部屋の広さや設備に変化がなく、なぜこんなに高いのかと思う状況に出くわす。需要と供給のバランスは分からぬわけではないが、お客が価値に納得してこそである。

 リピーターが増え、ネットで情報が飛び交う中で、旅行先が確実に魅力ある地方都市へと移っていき、その先は、田舎や山奥の美しい自然、素朴な人々との出会いと交流を求めることになる。さらには、ビルやマンションが立ち並ぶ都会にはない日本独自の歴史、文化の薫り高い田舎暮らし体験が、大きな魅力となることは間違いない。

 外国人の受け入れ準備を急いだ方がよい。トイレの洋式化は日本人でも必須だが、その他は欧米を模倣したり、外国人用に特別に設えたりすることはない。食事はパンではない。和食が世界無形文化遺産であり、米どころで、野菜の生産地で、魚介類がとれる田舎は、地産地消の田舎料理が最高のもてなしとなる。

 食事はもちろんだが、日本らしさの象徴でもある田舎の祭りや伝統工芸の継承が難しくなる時代になって、それらの価値が見直される機会になれば、次代につながることになる。世界中の注目が観光地・日本に集まり、外国人が動き出す中で、そこに暮らす日本人がその素晴らしさと高い価値を自覚し、誇りに思い、次代への保全を真剣に考え、行動に移す時である。

 食生産現場、酸素を供給している山林など、田舎の価値を都市住民の多くが理解していない。田舎の子ども、若者でも家業を手伝う人が少なく、住んでいるだけで理解しているような気になっている。つまり、日本の田舎の魅力の理解のためにも体験すべきは、外国人より先に日本人である。そして案内し、魅力を伝え、交流する人になってほしい。海外リゾートに負けない日本の田舎にしたい。

161112h

 
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