【体験型観光が日本を変える10】成功する組織づくり 藤澤安良


 会社発足前の社名や定款作成の段階から関わっている株式会社、南信州観光公社の取締役会と17期の株主総会に出席した。つまりは、17年以上前にコーディネート組織の必要性を感じ、当時の18市町村に理解と出資をいただき、設立に至った。以前にはプラットフォームと言い、今はDMOなどと言う。着地型観光や第3種旅行業など、何度もそのシステムの普及が政策課題に挙がってきたが、私が考えていたことに時代が追い付いてきた。

 つまりは、このような組織の役割が大きく、必要な時代となった。都市と農山漁村の人口格差は広がる一方であり、過疎、少子高齢化は全国共通の田舎の課題である。さらには、食の欧米化は進み、コメの消費額は減り、それに合わせて魚も、野菜も、果物も減り、外国産の肉が増え続けている。魚介類や野菜や果物までも輸入食品が目立つ。食料自給率(カロリーベース)40%を切るわが国ゆえに無理からぬことではあるが、日本の食料生産現場の危機的状況を救えずに、TPPの議論だけが進んでいる。

 そのような状況下での地方創生は観光振興しか残っていない。従来型の神社仏閣、名所旧跡、テーマパーク、遊園地などの観光なら、拝観、入場の窓口があれば、組織の必要はない。そのような観光なら、そうした史跡や施設を持たない地域はあきらめるしかないが、体験交流型の観光は、「心高まる旅」であるゆえに、豊かな自然、日本の原風景、心安らぐ景観があればいい。

 その中でのアウトドアアクティビティ、稲作、野菜、果樹、きのこなどの生産、森林整備、里山保全、獣害対策、炭焼き、川や海での漁、郷土料理づくり、伝統工芸や民芸品製作などに加えて、教育旅行に幅広く取り入れられている農山漁村生活体験(民家ステイ)に至るまで多様な分野での体験活動は、交流と学びと感動があり、リピーターになり、その地域のファンや応援者になり、定住につながる可能性を持っている。

 このシステムは、全国いずれの地域にもチャンスがある。地域を訪れてもらうためには、体験プログラムなどの目的提案が必要だ。民家ステイの受け入れ家庭の担い手、インストラクター、ガイドなどの人材育成なくしては成立しない。さらには、それらをマーケットに周知するための、営業活動、インターネットの対応などプロモーションが不可欠である。お客が来てくれた場合の交通、2次交通、旅館・ホテルなどの宿泊施設、食事、土産物産などいずれにも、顧客満足を高めなければならない。

 いずれの一つでもクレームになれば地域の印象は地に落ちる。地域の万民の意識を高めなければならない。インバウンドは後には、景観と民俗と食と交流を求めて、多くの外国人が「日本の田舎」を訪れることは間違いない。その対応も急がなくてはならない。最後に、それらの組織運営は、地域振興に対して志の高い人物でなければならない。もちろん、行政が先頭に立つか、全面的な協力が不可欠である。成功する組織づくりを期待したい。

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