テレビ番組の時代劇は大河ドラマで見るぐらいでしかなくなり、旅番組が増えている。海外リゾートを紹介するものもあるが、海外旅行をする人が多くなれば新鮮味がない。一方、お手軽に町並み散歩、あるいは途中下車の旅など歩いて町を回る番組が増えている。
食事店はもちろん、和菓子、せんべい、ケーキ、パンなどの手作りの町の暮らしに密着したお店も多い。また、伝統工芸や工房、趣味の店やセミナー、カルチャーも少なくない。文化的、物質的な面白さもあるが、サラリーマンや公務員にとってその多くは、非日常とも言えるその人の生き様がドラマのようで、興味をかきたてる。
ダーツの旅、家族に乾杯、路線バスの旅、充電させてもらえませんか?―など田舎にも出掛ける旅番組も視聴率が高い。視聴者の割合が高い都市住民は体験値が少なく、非日常ばかりで面白いに違いない。
田畑で農業を手伝うことや、田舎料理を作って食べたり、漁村で漁をして刺し身にしたり、新鮮でおいしい食事、豊かな自然、郷愁を感じる原風景、親や祖父母のような優しく親切な応対、昔懐かしく、珍しい家屋とその暮らしぶり、全てが刺激的である。それは興味と学びにつながる。
つまり、田舎暮らしそのものが旅の資源素材である。人は豊かな自然の空気から酸素をとり、あらゆる食べ物から栄養を取り、人から心の栄養をいただく。故に忘れてはならないのが、都市型の散歩と同様に地域の人との交流とコミュニケーションである。
交通機関の中も街角も路上でもスマホばかりを見ている人がいる。人の顔を見ていないし、言葉も文字面でしか交わせていない。同じ部屋にいても、隣の席からでもメールでのやりとりがあると聞く。普段これだけ話をしないなら、声も対話術も退化するかもしれない。
航空機も新幹線も窓が開かない。自動車もエアコン設備が当たり前になってから、窓を開けて走っている車はほとんどない。
速い乗り物は風も空気も肌で感じることができない。自転車や歩きは空気を感じることができる。一番ゆっくり進む歩きは同じ目線の高さで人に出会うことができる。道を尋ねるのも地域の魅力やおいしいお店を教えてもらえるのも、そこから世間話や身の上話に発展するのも平場での出会いが原点となる。
歩きがほとんどの江戸時代の旅なら、「旅は道連れ世は情け」などと感じても不思議ではない。歩きの危険もあるが、航空機内で酒を飲んで暴れ、新幹線車内で人が切りつけられたり、高速道路ではあおり運転でトラブルが起き亡くなる人まで出てくる始末。
空気の良い豊かな自然があり、いろいろな人との出会いとコミュニケーションがあり、時間がゆっくりすぎていくことを感じる旅に、その土地ならでは飲食があるなら、その旅は最も豊かな旅のように感じる。旅先で人に会い、人と話し、人に学ぶ旅こそ究極の旅になる。心豊かな日本と地方創生に必要なことである。