【データ】スノーリゾート地域活性化検討会の報告書


訪日スキー市場の開拓を 地域の経営力向上期待

 観光庁の「スノーリゾート地域の活性化に向けた検討会」(座長・原田宗彦早稲田大学スポーツ科学学術院教授、2015年1月設置)がこのほど、最終報告書「世界に誇れるスノーリゾートを目指して」をまとめた。ピーク期に対して参加人口が減少している国内客への対策、市場拡大が期待される訪日客の受け入れ策など、スノーリゾート地域の活性化に関する今後の取り組みについて提言した。報告書の主な内容を紹介する。

□現状・課題

 日本人のスキー・スノーボード人口は、「レジャー白書2016」(日本生産性本部)によると、1998年には約1800万人に達したが、2015年には約740万人に減少している。
スキー場は全国に約500カ所。索道(リフトなど)の設置基数は、1993年ごろの約3千基から減少し、2014年には2351基となった。スキー場では、施設の老朽化対策、安全管理体制の整備・運用、人材の確保などが大きな経営課題になっている。

 一方で日本のスキー場の雪質は外国人から高く評価されている。立地に関しても、首都圏などからの交通アクセスに優れたスキー場が少なくない。地域の基幹産業、雇用の場であり、経済波及効果の面でも重要な役割を担っている。

□取り組みの方向性

(1)地域の経営力向上

 地域で稼ぐ力を持ち、地元への誇りを醸成する観光地経営の視点に立ってスノーリゾート地域を形成するためには、地域自らが、データ分析によるマーケティングに基づいた戦略を立案し、経営力の向上に取り組む必要がある。

 地域全体で稼ぐことが重要で、日本版DMO(観光地域マネジメント・マーケティング組織)を形成し、地域づくりのかじ取り役として機能させることが期待される。また、取り組みに当たっては、地域のスポーツコミッションとの連携も期待される。

 日本のスノーリゾート地域の多くは中小規模だが、スキー産業は巨額の設備投資を必要とする。老朽化に伴う索道施設の架け替えなどの資金確保が大きな課題。設備更新の財源確保、スキー場の事業再生は、他の地域の事例などを参考にしながら、地域として対応を検討する必要がある。

(2)訪日客への対応

 訪日外国人は、スノーリゾート地域に長期滞在する富裕層も多く、旅行消費額も大きい。経済活性化の観点から新たな市場として期待され、特に富裕層は重要なターゲットとなる。外国人観光客は平日でも来訪が見込まれ、需要の平準化、経営の安定の観点からも受け入れが有効。来訪実態などを分析し、ニーズに対応した商品、サービスを提供する必要がある。

 18年平昌冬季五輪、22年北京冬季五輪の開催を契機とし、韓国、中国などのアジア諸国のスノースポーツ人口の増加が期待される。中国では、スキー場が1996年から2015年の20年間で567カ所に増え、スキーヤー数も2~3万人から1250万人に急増したとの報告もある。アジア諸国からの来訪を増やす取り組みが求められる。

 訪日外国人の長期滞在を促すため、工芸や芸能などの地域文化を生かしたプログラム、宿泊施設や食のおもてなしなどの滞在コンテンツ、アフタースキーの楽しみなどの提供が欠かせない。外国人目線で魅力ある内容とすることが重要だ。

 また、アジアを中心とする市場では、スキーやスノーボードだけでなく、雪遊びなど雪と触れ合うこと自体にも高い関心があることから、幅広い雪の楽しみ方を発信することが必要だ。雪山散策、冬の自然観察などの体験プログラムの充実が考えられる。

 情報発信では、政府のビジット・ジャパン(訪日旅行促進)事業の活用、海外の旅行博への出展など、地域の関係機関が連携して戦略的に取り組む必要がある。受け入れ態勢では、多言語対応、無料公衆無線LAN、2次交通などの整備が課題に挙げられる。外国人スキーインストラクターの活用に関しては、16年7月に在留資格の要件が一部緩和された。

(3)日本人客への対応

 今後、さらなる少子高齢化、人口減少が進展することを考えると、スノースポーツの国内の参加人口を増やすには、裾野の拡大が求められる。性別、年齢別、収入別、スキー経験別などのデータ分析を基に、主要なターゲットに対する施策を講じる必要がある。

 小学生など子どもたちには、スノーリゾート地域を中心とし、教育を通じてスノースポーツを普及することが重要。若年層に関しては、教育旅行を通じた取り組みも有効となる。子どもや若者に対しては、索道利用の割引、無料化などの費用負担を軽減する取り組みも望まれる。

 高齢者については、平日の来訪が可能で、今後の高齢人口の増加を見据え、健康増進や地域活性化といった観点からターゲットとなり得る。経験者も多く、再度訪れてもらうなどの取り組みが必要となっている。

(4)モデル事業の提案

 経営力向上や国内外からの誘客拡大に関するモデル事業をスノーリゾート地域の規模別に実施し、成果を全国に普及する取り組みが期待される。

 ◇大規模スノーリゾート地域

 スキー場を中心として周辺地域も含め、外国人、日本人を問わず多くのニーズに対応できるような取り組みを充実させることが必要だ。

 参考となる海外の先進事例を次の通りに挙げる。

 ・スイスのツェルマットでは、地域のDMOが主体的にマネジメントやマーケティングに取り組み、富裕層をターゲットとした顧客情報分析や人材育成、訪問者のニーズに的確に対応した受け入れ環境の整備に取り組んでいる。

 ・フランスのシャモニーモンブランでは、冬季のスノーリゾートとしてだけでなく、夏季のリゾートとして登山、ハイキング、サイクリング、ラフティング、パラグライダーなどの体験型プログラムが充実し、年間を通じて楽しめる。

 ・ツェルマットやシャモニーモンブランは、欧州5カ国12地区の高級リゾートからなる広域観光促進組織(Best of the alps=BOTA)に属し、独自色を発揮しながらも連携して広域的なスノーリゾート地域を形成している。

 ・カナダのウィスラー・ブラッコムでは、自然環境を保全しながらも、積極的な投資が行われている。また、障害者もアウトドア・アクティビティを楽しめるプログラムが整備されている。

 ・米国のベイルは、ショップや飲食店が充実。ゲレンデや宿泊施設、飲食店などを無料で巡回するバスも運行されている。スノースポーツに加え、アフタースキーを楽しむ環境が整っている。

 ◇中小規模スノーリゾート地域

 国内に数多い中小規模のスノーリゾート地域では、スキー場本体のみの対応では、取り組みに限界があるため、スキー以外の要素の充実、近隣スノーリゾート間の連携が特に重要となる。

 スキー以外の要素では、自然、食、祭、宿泊施設、動植物、樹氷など、魅力的な観光資源を発掘、構築し、充実させることが必要。特に「ここならでは」「ここでしかできない」体験プログラムを提供したり、ターゲットを思い切って絞ったりといった施策の検討も望まれる。

 近隣スノーリゾート間の連携では、事業者や自治体の垣根を越えて共通の魅力やコンセプトを基盤とした取り組みを模索することが必要。共通リフト券や複数のスキー場を移動するバスの運行など、具体的な連携が重要となる。

 ◇東北地方

 蔵王、八幡平、安比、八甲田など、恵まれた雪質、交通アクセスの良さを生かして東北観光復興の拠点となり得るスキー場が複数存在している。それらのスキー場を中心にスノーリゾート地域として磨き上げ、復興の拠点とする必要がある。

 中小規模のスノーリゾート地域でも、スノースポーツ以外の魅力を組み合わせるなど、東北の特色を生かしたコンセプトを確立し、魅力的な拠点を形成することが望ましい。

□推進に期待

 報告書は「おわりに」として「本提言を踏まえ、国、関係行政機関、地方自治体、DMO、民間事業者などが連携して、各々の役割を定めた包括的なアクションプログラムを作成し、そのプログラムに沿って着実に成果を上げていくことを期待する。わが国のスノースポーツ参加人口を増加させ、関係者の連携のもと、ここ20年以上滞っているスノーリゾート地域を活性化させることは容易ではないが、きわめて重要かつ緊急性を持つプロジェクトになると考える。引き続き関係者が英知を絞って、このスノーリゾート地域の活性化のためのプロジェクトを着実に前に進めてほしいと切に願う」と期待を込めた。


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