前編において、わが国のホテルは例外なく、いつか来る大震災から逃れられず、いったん被災した場合いかなる事態に対処しなければならないのか、について述べた。今回は、この将来必ず起こるであろう大震災に対して、ホテルの事業上のリスク管理をどのように考えればよいのか、について触れてみたい。
その際基本に据えたい概念が、いわゆる「事業継続計画(BCP)」(Business Continuity Plan ) である。ご承知の通り、これは企業の存続が危ぶまれるような事態に直面した場合に備えて、事業継続を目してあらかじめ立てておく基本計画のことを指すが、わが国のホテルにおける最大の企業リスクは、やはり大震災であると言えよう。
BCPの策定については、内閣府によるガイドラインほか多くが提唱されているので、それらを参照していただくとして、ここではホテル事業にある固有の問題点について整理したい。
まずは当然のことながら、建物の耐震性強化が挙げられる。通常のリノベーションを超える多大な改修資金の確保には、とにかく資本の充実を図る他に方法はない。
ソフト面では、何といってもお客さま第一を考えねばならない。被災時の館内滞在客を、安全とはいえなくなったホテル内にとどめることなく、可及的速やかに安全地域への移動方法を講じなくてはならない。通常、交通途絶の中でこれを実現するには、前もって実現可能な方策を立てておくことが必要不可欠である。特に地震に不慣れな外国人客に対しては、万全な配慮が必要となろう。
次に、従業員の災害対応能力のレベルアップが挙げられる。直後の短期的対応のみならず、出来るだけ早期の通常営業への復帰を目指して、自らの現場体制をいかに速やかに整備していくべきか、その対応力と高いモラルが何にも増して必要となるからである。
最後に必要なことは、地域行政との認識の共有である。ホテルは宿泊を始めとする多様な機能を持つものとの一般認識から、被災者の受け入れのほかさまざまな災害復旧拠点としての協力要請がなされるが、これらはあくまでホテル自体の被災状況を見た上でのこと。また、企業としては当然に、速やかなBCPを目することに、あらかじめ行政の理解を得ておく必要がある。
ここに掲げた諸問題はみな基本的な事柄だが、事が起こってからでは対応できないことばかりである。将来にわたるホテルの繁栄のために、今、業界が共同してこれに当たるべきではないだろうか。
(NPO・シニアマイスターネットワーク会員 元横浜商科大学教授、櫻井宏征)