昨今の物価上昇を機に宿泊施設においても真剣に値上げ(プライシング)について考えるべきであるという前号の話を受けて、今号では具体的に考えていきたい。
まず、プライシングにおいては「コスト積み上げ方式」「マーケットイン方式」があるとされている。読んで字の如くであるが、コスト積み上げ方式は人件費に○○円かかり、食材原価に○○円かかり、リネン代に○○円かかり、結果として売価を1万円にしないと売っても売っても赤字になるので、1万円で売価を設定するという文字通りコストを積み上げて価格を決定する方式である。一方で、マーケットイン方式はこのエリアの1泊2食の市場価格が1万円くらいのため、当館も1万円で設定しますという方式である。
どちらが正しいということでもなく、どちらとも意識しながらプライシングをすべきではあるのだが、厄介なのがマーケットイン方式の負の部分である。どういうことかというと、競合施設が1万円で売り続ける限り、当館も1万円で売り続けるしかないと思い込んでしまい、その価格を見た競合もやっぱり値上げをせず、永遠に値上げできないという負の連鎖が巻き起こる。
ここでしっかりと考えなければいけないのが、「その競合は本当に競合ですか?」という点と「競合から抜きんでてお客さまに選ばれるためにブランディング努力していますか?」という点である。特に前者は何となくイメージで競合設定されていることが多く、しっかりとした分析が必要である。現在ではOTA各社もデータに基づいた競合施設を教えてくれるし、自施設でもいろいろとテストすべきである。
例えば、値上げできないということは、競合旅館より高いと売れないという仮説であり、テスト的に競合料金よりも高い設定をしてみるという方法がある。仮にこれで稼働が変わらない場合は、その競合設定は思い込みであったことが立証されるので、異なったプライシング戦略を考えることができる。
次号ではさらに具体的な部分にも触れていきたいと思う。
(アビリブ・プライムコンセプト取締役 内藤英賢)