「旅行業界のレジリエンスは十分、日本には大きな可能性」——ブッキング・ドットコムが東京で創業30周年記念サミット、宿泊担当SVPが基調講演


Booking.com 宿泊事業担当シニア・バイス・プレジデントのマティアス・シュミット氏

 ブッキング・ドットコムは9月15日、東京・高輪ゲートウェイコンベンションセンターで「Booking.com Innovation Summit Japan 2026: The Next Horizon 30年にわたるつながり、イノベーション、そして発見」を開催した。同社の宿泊事業担当シニア・バイス・プレジデントのマティアス・シュミット氏が基調講演に立ち、「旅行業界は十分なレジリエンスを持ち、日本の旅行エコシステムには大きな可能性がある」と強調。日本の宿泊事業者の72%以上が人手不足を感じているという政府調査のデータを示しながら、テクノロジーと人のおもてなしを融合させた持続可能な観光モデルの構築を訴えた。グローバルな旅行市場が2036年までに3兆米ドル規模に達するとの予測も示され、日本への旅行需要の力強さが改めて確認される場となった。

サミット開催の概要

 イベントの名称は「Booking.com Innovation Summit Japan 2026: The Next Horizon」。2026年9月15日(火)午後3時から午後6時30分まで、東京都港区高輪2丁目21-2のTHE LINKPILLAR 1 SOUTH 6Fに位置する高輪ゲートウェイコンベンションセンターで開かれた。主催はブッキング・ドットコム、共催は株式会社三菱総合研究所(MRI)。

 プログラムは午後3時のオープニングから始まり、基調講演、4つのDeep Dive Session、Fireside Chat、クロージングという構成。午後6時からは懇親会も行われ、懇親会開始前にはステージ上での登壇者全員によるフォトセッションも実施された。

 同社のアジア太平洋地域担当マネージング・ディレクター、ローラ・ホールズワース氏がオープニングとクロージングを担当した。

 登壇したブッキング・ドットコムの幹部は以下の通り。

  • マティアス・シュミット(宿泊事業担当シニア・バイス・プレジデント)
  • ジェームズ・ウォーターズ(シニア・バイス・プレジデント兼最高事業責任者)
  • ラジブ・アパナ(決済担当バイス・プレジデント)
  • マーニー・ウィルキング(バイスプレジデントセキュリティ最高責任者)
  • ローラ・ホールズワース(アジア太平洋地域担当マネージング・ディレクター)
  • ルイス・ロドリゲス(日本代表)

 ゲスト登壇者も多数参加。三菱総合研究所から比屋根一雄氏(研究理事・AI技術顧問)、宮崎俊哉氏(観光立国実現支援チームリーダー・主席研究員)が登壇した。そのほか、地域観光プロデューサーの福田直子氏、南禅寺八千代代表取締役兼オーナーの中西俊之氏、SQUEEZE Inc.執行役員CMOの渡部謙太郎氏、欧州連合駐日代表部デジタル経済政策担当公使参事官のピーター・ファテルニグ氏、内閣官房・国家サイバー統括室国際戦略ユニット国際戦略班企画官の前田京太郎氏が各セッションに参加した。

創業30年、変わらないミッションと変わり続ける情報環境

Booking.com 宿泊事業担当シニア・バイス・プレジデントのマティアス・シュミット氏

 

 基調講演はマティアス・シュミット氏が担当した。同氏は現在、アムステルダムに拠点を置き、ブッキング・ドットコムのグローバルな宿泊事業の成長と戦略を統括する立場にある。

 シュミット氏はまず、ブッキング・ドットコムが2026年に創業30周年を迎えたことを紹介した。「この30年間に、我々の業界、また我々を取り巻くいろんな環境で多くのことが起こり、多くの変化があった。しかし、一つずっと一貫していること、それは我々のミッション——すなわち、すべての人が世界を体験する、それをしやすくする、ということだ」と述べた。

 同社は200カ国以上で旅行者とパートナーを結ぶ双方向型のマーケットプレイスを運営。「常に価値、容易さ、そして信頼を重きを置いてやっていきたい。これが我々にとっての戦略的な柱だ」とシュミット氏は語った。

 30年間変わらないものがもう一つある、とシュミット氏は続けた。「人は旅行したい、人はいろんなことを経験したいと考えているということだ。人が旅行する必要があるというこのニーズは、この30年間変わっていない」。

 現代の旅行者が旅行に際して抱く問いも、30年前と本質的に変わらない。どこへ行くべきか、どうやったら行けるのか、どこで泊まるべきか、それはどう支払うのか、適切な料金なのか、何か問題が起こったらどうするか——こうした問いは現在も共通だとシュミット氏は整理した。

 「唯一30年前と違うのは、人がこの情報をどこから得るかだ」とシュミット氏は指摘した。かつては信頼する旅行エージェントや知人から情報を得ていたが、今はオンラインチャンネルが増えた。「将来的には、おそらく生成AIがかなりこの役割を果たすようになるだろう」と展望を示した。

 この30年間、同社のプラットフォームでは何億もの旅行者が宿泊、地上移動、フライト、アトラクションや体験、保険などを予約してきた。そうした旅行者から寄せられた検証済みのレビューは、プロダクトの設計やコンテンツの改善に活用されてきたと説明。今後も人材、テクノロジー、パートナーとの関係に継続的に投資していく方針を示した。

旅行市場は2036年に3兆ドル規模へ、アジアがけん引

 シュミット氏は続いて、世界の旅行業界を巡る大きなトレンドを説明した。取り上げたテーマは以下の通り。

  • 旅行業界のレジリエンスと今後の成長
  • 旅行者の思考の進化
  • 地域の魅力の変化
  • 業界における人材・スキル不足への対応
  • デジタルプラットフォーム・生成AI・フィンテックの活用
  • 持続可能な観光の未来

 

 グローバルな旅行業界はGDPの成長率を上回るペースで伸びており、30年間でこの傾向から外れた例外はコロナ禍のみだったとシュミット氏は述べた。「グローバルな旅行市場は2036年までに3兆米ドルに到達すると言われている」。

 その成長をけん引するのがアジアだ。「ほとんどのアジアの市場の年間成長率は平均を大きく超えている」とシュミット氏は説明した。

 一方で、マクロ経済や地政学的な不確実性によって環境が不透明になっている面もある。特に中東情勢の影響を受け、アジアからの海外渡航には悪影響が見られたが、国内およびアジア域内の旅行については高いレジリエンスを示した。長距離路線の需要が落ち込んだ一方で、旅行者が短距離の国内・域内路線にシフトしているためだ。「アジアの旅行需要は消失しているわけではなく、方向転換が進んでいる」とシュミット氏は述べた。

 日本への需要については、過去8カ月の検索データを引用。「日本の需要は非常に強く、一貫してアジアにおいて上位の旅先としてランクインしている」と強調した。

日本の宿泊事業者、72%が人手不足を実感

 業界全体の課題として、シュミット氏はまず人材・スキルの不足を挙げた。特に日本での状況について、政府調査のデータを示した。「日本の宿泊事業者の72%以上が人手不足を感じている」。

 人手不足が続くことで、業務負担の増加、採用コストの上昇、サービスレベルの低下といった影響が生じると指摘。背景には低賃金と休日の少なさがあるとした。

 解決策として、単に多くの人員を雇うのではなく、新しい運用モデルの導入が必要だと説いた。「より良い職業環境の整備、的を絞った人材の誘致、自動化、そして需要をより生産的に活用するためのシンプルなプロセス——これが重要になってくる」と述べた。

旅行者が求めるのは「没入的な体験」、高山・広島・金沢への関心も

 2つ目の課題は、現代の旅行者の具体的なニーズや好奇心に応えることだ。

 「現代の旅行者は、ちょっと変わった旅先を探求したいと思っている。豊富な情報源にあふれており、明確な意図を持って行動する。単に一つの旅先を訪れることが目的ではなく、その場所で没入的な体験をしたいと思っている」とシュミット氏は説明した。

 具体的な活動への関心も高まっている。食、自然、文化、スポーツ、イベントといった特定のテーマへの関心が顕著だという。最近の検索データによれば、日本の多様な文化や四季と地域観光をいかに結びつけるかが重要なポイントとして浮かび上がっている。

 ヨーロッパの旅行者の間では日本への関心が根強い。「欧州の旅行者はもっと深い、本物の日本の文化を知りたいと思っており、彼らが求めるデスティネーションは高山、広島、福岡、あるいは金沢などだ」とシュミット氏は述べた。

 アジア太平洋地域の旅行者については、大阪、福岡、名古屋などの近代的な都市部への需要が強い。また、冬のスキーをはじめとする季節性の高い旅行需要も重要なトレンドとして挙げた。「文化的な探訪は秋、冬はスキーというように、時期によって旅行者の意図が変わる」。

 宿泊施設の多様化も進んでいる。「旅館をはじめとするオルタナティブな宿泊施設は日本の体験において重要な存在になっている」とシュミット氏は述べ、同社のプラットフォームにおける部屋の予約の37%がこうした旅館などのオルタナティブな宿泊施設のセグメントであることを明らかにした。複雑で細分化されたニーズが存在する中、従来型の検索だけではこれらのニーズを十分に捉えきれない面があると指摘した。

生成AIが旅行の計画・予約・決済を再構築

 最後のテーマとして、シュミット氏は生成AIが旅行体験を変えつつある現状を説明した。

 「計画、検索、予約、あるいは決済の仕方も、生成AIによって再構築されている」とシュミット氏。同社ではすでに以前から機械学習モデルをビジネスに展開してきたが、生成AIの登場によってさらに多くのものが形を変えつつあるという。

 旅行者の期待も高まっている。「もっと個別化されたサービスを期待しており、多くのアクティビティを生成AIを使って調べているからだ」とシュミット氏は述べた。

 安全・セキュリティの確保も欠かせない課題だ。「旅行者もパートナーも両方が、我々のプラットフォームで安全でセキュリティを確保された形で運営され、モデルのハルシネーションや不正行為から保護されることが期待されている」と強調した。

 こうしたテーマは、同日のDeep Dive Session 1「AIと旅の関係性」(登壇者:シュミット氏、三菱総合研究所の比屋根一雄氏、モデレーター:ブッキング・ドットコム グローバルコミュニケーションのサイモン・クラーク)でも引き続き議論された。

「2030年6000万人」へ、旅行者・事業者・地域・公共部門と連携

 シュミット氏は講演の締めくくりにあたり、改めて旅行業界の現状と展望をまとめた。

 「旅行はレジリエンスが十分にある業界だ。日本の旅行エコシステムには大きな可能性がある。テクノロジーと人々の心配りのバランスをとり、信頼を強化し、地域のパートナーの力を引き出すことで、豊かで地域のバランスの取れた、そしてサステナブルなモデルを築くことができる」。

 日本政府が掲げる2030年までにインバウンド6000万人という目標にも言及。「ブッキング・ドットコムは、旅行者と事業者と地域社会、そして公共部門のパートナーの皆さんと一緒に、この未来をともに築きたいと思っている」と述べ、基調講演を締めくくった。

 基調講演に続くDeep Dive Session 2「地域経済の成長——AIのもたらす次なる地域観光とは」では、ブッキング・ドットコム日本代表のルイス・ロドリゲス氏、三菱総合研究所の宮崎俊哉氏、地域観光プロデューサーの福田直子氏、南禅寺八千代代表取締役兼オーナーの中西俊之氏が登壇。また、Fireside Chat「30年の歴史と旅行・テクノロジーの未来」ではジェームズ・ウォーターズ氏とヌノ・ゲレイロ氏(北・南アジア地区リージョナルディレクター)が議論を展開した。フィンテックによる地域観光の活性化、オンライン上の安全をテーマにしたセッションも行われた。

【kankokeizai.com 編集長 江口英一】

 
 

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