「安さ」だけでは選ばれない時代へ――スカイスキャナー×JAL×鳥海高太朗氏が語る”価格以上の価値”と旅のカタチ


左から小島、岡田、鳥海の各氏

 スカイスキャナー Japan株式会社は9月16日、日本航空株式会社および航空・旅行アナリストの鳥海高太朗氏を招いたラウンドテーブル『”価格以上の価値”とこれからの旅のカタチ』を開催した。

 円安や物価高を背景に旅行における費用対効果への意識が高まるなか、スカイスキャナーの検索データが示す旅行者ニーズの変化、日本航空が現場で捉える航空需要の実態、そして業界アナリストの視点を掛け合わせたパネルディスカッションが行われた。登壇したのは、スカイスキャナージャパン コマーシャルリード/トラベルエキスパートの岡田健太郎氏、日本航空 Web販売部 1to1マーケティンググループ主任の小島史也氏、そして航空・旅行アナリストの鳥海高太朗氏の3名。

 

航空券検索数は2026年も増加基調 3月は前年比43%増

岡田氏

 岡田氏はまず、日本市場における航空券検索数の推移を紹介した。
 
 「海外旅行を含む旅行への関心そのものは引き続き顕著だ」と岡田氏。スカイスキャナーのデータによると、日本市場における航空券の検索数は2024年以降増加傾向が続いており、2026年1月から7月にかけてもほとんどの月で前年同月比プラスで推移している。特に3月は前年比43.4%増と大きく伸長。6月のみ前年をわずかに下回ったが、これはゴールデンウィーク直後で祝日がなく、旅行需要が全体的に低下しやすい時期であることが背景にあると説明された。

 「航空運賃がさまざまな外部要因によって上昇しているというギャップがある中でも、人々が目的地に行きたいという思い、そして航空券の検索を続けていることに変わりはない」(岡田氏)

 

乗り継ぎ地が変化 中東から近隣アジアへ

 経由地選びの変化についても、スカイスキャナーのデータから注目すべき動きが示された。

 前年比で乗り継ぎ需要が増加している地域として、韓国(+18.7%)、米国(+11.7%)、台湾(+9.4%)、ベトナム(+6.6%)が挙げられた。一方で、タイ(▲9.5%)、フィリピン(▲12.0%)、カナダ(▲15.5%)、UAE・中東(▲31.5%)は前年を下回った。

 岡田氏は「どこで乗り継ぐかが、賢く旅をするための選択ポイントになってきている」と述べた。米国が11%伸びている点については、ワールドカップの影響とともに、主要都市だけでなく、そこからさらに一歩足を伸ばして主要都市以外の場所まで足を運ぶ傾向が数字に表れていると分析した。

 日本航空の小島氏は、同社の路線においてもソウルや台北など東アジア主要都市での乗り継ぎニーズを確認していると述べた。また、中東路線については現在一部が休止状態にあり、ヨーロッパ方面ではヘルシンキ経由の需要が高まっていることを明らかにした。

小島氏

 鳥海氏は乗り継ぎに対する概念の変化をこう語った。「今まで運賃を抑えるためというのが乗り継ぎの大きな使い意義だったが、最近特に今年に入ってから、ソウルや台北乗り継ぎというのが本当によく見られるようになっている。24時間ルールをうまく使って2都市を楽しむという形で、乗り継ぎが付加価値に変わったという変化がある」。

 直行便が「一番の正解」と思われていた時代から、目的に合わせて乗り継ぎ便を選ぶ自由が広がったと鳥海氏は指摘。こうした選択が可能になった背景の一つとして、スカイスキャナーのような比較検索ツールの普及を挙げた。

鳥海氏

早朝・深夜便の活用が定着 滞在日数は1割増

 旅行者の時間の使い方についても変化が見られる。

 鳥海氏は「早朝便や深夜便を使い、1日の時間をうまく上手に使うという傾向が増えている」と述べた。金曜夜に出発して現地に土曜早朝到着し、月曜に帰国するいわゆる弾丸旅行に加え、リモートワークの普及によって帰国当日をリモートワークに充てたり、木曜夜に出発して金曜は海外から仕事をこなしてから旅行に入るといったスタイルも定着しつつあると説明した。

 「安いから早朝・深夜便を使うというよりは、今は時間を上手に活用するために選ぶ」(鳥海氏)

 この傾向はデータにも表れている。岡田氏によると、スカイスキャナーのデータでは2026年1月から7月にかけて旅行者の平均滞在日数が全月で前年を上回った。2026年1月時点で平均4.5日だったものが直近では5日まで伸びており、7か月間で1割の増加となっている。「限られた休みの中で現地にいる時間をなるべく長くしたいという傾向が見て取れる」と岡田氏は語った。

 小島氏も「タイムパフォーマンスというところが、直近でかなり重視されるようになっている」と実感を述べた。早朝・深夜便の活用で現地滞在時間を最大化できる点のほか、ホテル価格が高騰している都市では宿泊1泊分を節約してその分を別の予算に回せるという観点でも、旅の価値向上につながると説明した。

データで納得して組み立てる「ロジタビ」

 旅行者がデータをもとに費用対効果を最大化する傾向を、スカイスキャナーは「ロジタビ」と呼ぶ。

 岡田氏によると、1〜2週間程度の旅行では出発の約80〜90日前から検索・検討を開始している旅行者が多い。スカイスキャナーのデータ上でもこのようにロジカルに旅を組み立てる層が確実に増えているという。

 鳥海氏はこの傾向について「3ヵ月という時間をかけて比べているというのは、迷っているのではなく、失敗したくない、納得した上で行きたいという意識の表れだ」と述べた。情報が氾濫する今こそ、「正しく比べられる材料、取り扱っている航空会社の数、さまざまなプランを出してくれる、比較できることの重要性が増している」と強調した。

 小島氏も「こだわりたい部分と、ここはお金をかけなくてもいいという部分をうまく使い分けていらっしゃる方が多い」と述べ、宿泊と航空券を自由に組み合わせるダイナミックパッケージへのシフトが進んでいることを挙げた。旅行への金銭的・時間的な投資に対するROI(費用対効果)をシビアに評価する時代になってきているとの見方を示した。

国内旅行も分散化 地方・離島路線が急伸

 国内旅行においても同様の変化が起きている。

 スカイスキャナーのデータでは、伸長している国内路線として福岡〜鹿児島(前年比250.2%)、鹿児島〜松山(同155.4%)、伊丹〜函館(同153.8%)、伊丹〜松山(同125.7%)、羽田〜久米島(同121.7%)、羽田〜南紀白浜(同118.2%)、羽田〜とかち帯広(同111.6%)が挙げられた。地方と地方を直接結ぶ路線や、羽田から九州・南岸方面への需要が伸びており、「国内線という括りでいうと、総量が大きく変わっていなくても中身がかなり入れ替わっている」と岡田氏は説明した。

 鳥海氏は「定番観光地はインバウンドで混み合っており、地方や離島が伸びている」と述べた。SNSや動画配信サイトでリアルな情報を見つけ、「まだバレていない」場所を自分で探し出してその土地の魅力を体感する旅スタイルが広がっていると指摘。「みんなが行く場所ではなく、自分が調べて見つけた場所に行く、という動きがこれからさらに広がっていくのではないか」と述べた。

 日本航空の「どこかにマイル」についても言及があった。鳥海氏は「JALさんの最大のヒット作だと思っている」と述べ、行き先が事後に決まるというサービスの仕組みが、自分では選ばなかった場所との偶然の出会いを生み、その地域を好きになるきっかけになると評価した。

 小島氏は、AIの普及によって自分にパーソナライズされた答えが出しやすくなっており、「みんなが行くところというよりも、自分に合った隠れた観光地を見つけやすくなっている」として、旅先の分散化が今後さらに進んでいくとの見解を示した。

旅行者の約半数がAI情報の正確性に不安 スカイスキャナーはChatGPT連携を展開

 今後の両社の取り組みとして、AIの活用が大きなテーマとして取り上げられた。

 スカイスキャナーの調査では、旅行者の約49%がAI情報の正確性に不安を感じているというデータが示された。岡田氏は「旅行は高価だからこそ、信頼できる情報をもとに自分で納得して決めたいという心理の表れだ」と述べた。

 スカイスキャナーは現在56か国でChatGPTとの統合を展開している。自然な言葉でスカイスキャナーに問い合わせると、実際の航空券検索結果が返ってくる仕組みで、「メタ検索がAIに置き換わるのではなく、旅を探す新しい入り口が増えた」と岡田氏は説明した。

 また、ベータテスト中の機能として「Explore with AI」も紹介された。スカイスキャナーのサイト上で自然な言語による検索が可能で、希望に基づいたパーソナライズされた旅先と航空券の候補を提案する。20年分の蓄積データをもとに価格・天気・所要時間などを比較して具体的な選択肢を提示するもので、日本市場への導入は現時点では未定。

 鳥海氏は「旅行業界のAIの満足度がまだ伸びきらない理由は、リアルタイムの料金変動に対応できていないことだ」と指摘した上で、「スカイスキャナーのリアルタイムな価格データとAIを組み合わせることで、49%という数字が来年60%になるかもしれない」と述べた。

 小島氏は「最終的な意思決定を下すのはまだAIでは代替できないフェーズ」との見解を示した。日本航空としては国際線への新機材A350-1000の導入、ZIPAIR、STARLINK Wi-Fi、有料機内食グレードアップサービス、有料ラウンジサービス、JAL入札アップグレード、手荷物優先受け取り有料サービスなど、多様化するニーズへの対応を進めていると説明した。また、一生涯で利用実績を蓄積するライフステータスポイント制度の導入や、ガス・電気・モバイルなど日常生活でマイルやポイントを貯められる「JALマイルライフ」の拡充についても紹介した。

【kankokeizai.com 編集長 江口英一】

 
 

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