彦根城世界遺産登録推進協議会(滋賀県・彦根市)は9月3日、国の文化審議会世界文化遺産部会の審議の結果、「彦根城」が令和8年度における世界文化遺産の推薦候補として選定される旨の答申が文化庁より発表されたと明らかにした。
協議会は令和10年(2028年)の世界遺産登録を目指しており、本年5月25日に文化庁あてに推薦書案(第5版)を提出していた。今回の選定は、30年以上にわたる関係者の取り組みの末に到達した大きな節目となる。
「顕著な普遍的価値が認められ得る」と文化審議会
文化庁が発表した文化審議会の答申では、彦根城を選定した理由が詳細に示されている。
今年度に世界文化遺産への推薦を希望する物件は「彦根城」のみだった。本物件については、令和6年10月にイコモス(世界遺産委員会の諮問機関)による事前評価の結果が通知されたことを受け、イコモスに指摘された事項に対して十分な説明がなされているかという観点も含め、推薦書案について審議が続けられてきた。
令和7年度の文化審議会意見では、「検討に進捗がみられるものの、なお課題が残る点がある。今後のイコモスの審査を見据えて、推薦書案にあるような単独の資産での申請を行うためには、説明の充実に向けて引き続き取組が必要である」とされていた。
今年度の審議では、イコモスおよび文化審議会からのこれまでの指摘を踏まえて作成された推薦書案が改めて審査された。その結果、「推薦書提出までに海外の専門家にもより分かりやすい表現となるよう推薦書案の記述内容について修正していくことが求められるものの、『彦根城』は、諸外国に類をみない、江戸時代の大名による統治システムを物証できるものとして、顕著な普遍的価値が認められ得ると考えられ、かつ、構成資産は十分な保護措置を受けていることなどから、今年度推薦することが適当と思われる世界文化遺産の候補物件として、本物件を選定する」と結論付けられた。
「大名統治システム」の希有な物証
文化庁の発表資料では、彦根城の価値について「彦根城 ―徳川期日本の地方統治拠点における大名による統治システムの物証―」として詳細な説明がなされている。
17世紀の日本では、大名が中央政府から当該地域で唯一の統治拠点を与えられ、その権威を示すとともに、重臣たちに領地と領民の個別統治を行わせず、自らの統治拠点に集住させて、ともに政治を行うことを特徴とする「大名統治システム」が成立した。このシステムは諸外国に類をみないものであり、江戸時代の長期間にわたる社会秩序の安定に大きく寄与したとされる。
彦根城は、江戸時代(1603-1867)の日本における代表的な地方統治拠点であり、城の全体構造によってこの「大名統治システム」を体現する希有な物証であると位置付けられている。
大名統治システムを伝える彦根城(滋賀県彦根市)の物的要素としては、堀・石垣・土塁、天守・櫓・門、御殿、重臣屋敷が挙げられている。
「通過点であり、いよいよ次のステージへ」 三日月知事がコメント
今回の選定を受け、滋賀県の三日月大造知事は記者会見でコメントを発表した。
「これまでの、30年以上という長きにわたる、多くの関係者の皆様によるご尽力のお陰をもちまして、国内推薦候補への選定という目の前の大きなハードルを乗り越えられたことに対し、深く感謝を申し上げたいと思います」と述べた。
また、「江戸時代の安定的な社会を支えた『大名統治システム』の物証である『彦根城』が、世界文化遺産の候補物件としてふさわしい資産であるとの評価を、文化審議会の有識者の皆様からいただけたことは、とても大きな成果であり、大変名誉なことだと考えております」と評価した。
その一方で知事は、「しかしながら、世界遺産登録という意味においては、あくまでも通過点であり、いよいよ次のステージへ進むのだ、という心持ちであります。引き続きユネスコへの推薦書の提出、また、現地調査など、登録実現に向け更に取組を進めてまいります」と、気を引き締める姿勢を示した。
「登録は決してゴールではない」 保全と活用の両立を強調
今後の方針についても知事は具体的に言及した。
「今後、より必要となっていくのは、資産の保全と地域での活用と考えています。登録は決してゴールではなく、先人により守られてきた世界的な価値を持つ貴重な文化財を、未来に向けて引き継いでいくことこそが、私たちの使命と考えています」と述べた。
さらに、「彦根市をはじめ、県民の皆様とともに、彦根城の世界遺産としての価値を一段と高めるため、保存と活用の両立に向けた議論も、より一層深めてまいりたいと考えております」とした。
令和10年(2028年)の登録実現を目指し、「今後とも、文化庁をはじめ、彦根城世界遺産登録推進協議会の学術会議の先生方、国・県・市の各議員連盟や地域の応援団体など、多くの関係者の皆様の御指導・御協力を賜りながら、本県が目指す令和10年登録の実現を目指して邁進してまいる所存です」と強調した。
今回の文化審議会答申を踏まえ、今後はユネスコへの推薦書の提出や現地調査への対応が本格化する見通しだ。推薦書案については、海外の専門家にもより分かりやすい表現となるよう記述内容の修正が引き続き求められている。




