【道標 経営のヒント 200】エコ・小と土地の力 佐々山建築設社長 佐々山茂


 先日、東北の旅館でエコ・小活動を行った。エコ・小活動は温泉旅館を土地の力を生かし、小さなエネルギーで美しく運営することを目指しているが、一方で生産性向上も目的としている。

 生産性向上とは、投入するエネルギーや労働力に対して利益率を上げることで、今回は温泉施設を効率的に運用することで無駄にしている水と重油を減らし、循環ポンプにインバータを設置して無駄な電気使用量を抑え、生産性向上を目指している。しかし、このようなエネルギー対策は地味で、分母を小さくすると同時に付加価値を増やし、分子を大きくすることを同時に行わないとモチベーションが上がらない。

 食事の提供場所の話になった。この日の昼食を頂いた渓流を望むレストランはラウンジに接し、専用厨房があってお客さまにも喜ばれている。しかし、お客さまが多いと席数が確保しやすいコンベンションホールにバイキング会場を移している。コンベンションホールは天井が高く、空調負荷と照明負荷が大きく、電気使用量が増え、その上テーブル位置が団体向けで、景色もない。渓流を望むレストランはラウンジやテラスなどを入れるとコンベンションより広く、少し手を加え、食事時間を分散すれば対応できると考えた。この地域一番ともいえる景観を見ながらの食事はお客さまの満足度も上がり、付加価値を生む。

 次にロビー前の名物の断崖の話になった。何千万年前に海底が隆起してできたと常務の話にも熱が入り、普段は寡黙な社長もこの辺では少し掘るとどこでも化石が出るという。昔は縄文土器も出たが、対岸の公園では珪化木が取れるという。

 若女将は初めて聞く話に身を乗り出して聞き入り、ちょうど夏休みで、化石と昆虫採集ツアーを組んだらという話も出た。海底が隆起した断崖や化石が取れることをブラタモリ風に紹介し、社長自ら案内する地質観察ツアー、化石ツアーは地域らしいアクティビティとなる。私も息子が小学生のころ、化石採集にあちこち出掛けたことを思い出した。江戸時代に創業者がこの地を選んで宿泊業を始めたことに思いをはせれば自分たちでできることはまだまだあると感じた。

 自然や土地に接する機会の少ない日本人は子どもを含めてほとんどが都会人となった。その地を訪れる人々の心が求めているのは、その土地がそもそも持っている自然の力、資本財ともいえる景観だ。ブラタモリやポツンと一軒家などの番組がバラエティーより人々の心を引きつけていることはヒントになりそうだ。

 
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