【観光業界人インタビュー・DMO成功への秘訣 30】埼玉県物産観光協会 事業部長兼観光課長 岩岸悟氏に聞く


岩岸氏

県民730万人の観光需要拡大 遊びから観光へ意識変える

 ――DMO登録への背景は。

 「埼玉県物産観光協会は、物産販売、観光の両輪を一元化して推進する組織として2009年に立ち上がった。埼玉県の観光入込数は調査結果を公表している39都道府県の中で全国第2位だが、圧倒的に日帰り旅行が多く、観光客の宿泊比率では全国最下位と沈んでいる。県内には730万人もの住民がいるが、東京のすぐ北側に位置し、交通の利便性が高いことから、川越や秩父など県内の観光地に対しても『近所に遊びに行く』感覚で、『観光に行く』という概念は薄い。そこで、県民の観光需要を掘り起こし、県外、国外からの誘客を推進するため、組織を地域連携DMO(通称『彩の国DMO』)として申請し、県内の市町村、観光協会、観光関連事業者、交通事業者らと連携しながら、2030年の日本の観光を見据えた観光づくりができる体制をつくった」

 ――現在の取り組みは。

 「埼玉県には充実したスポーツ施設や利便性の高い交通網、産業観光に適した工場や酒蔵などの施設、東京では見られない里山などの自然が強みとしてある。ラグビーワールドカップ2019や2020東京五輪・パラリンピックなど大型イベントの開催も予定されている。現在、これらの強みを生かし、観光を促進するために、『売りたい』地域資源の発掘、データに基づいたマーケティング、地域連携、おもてなし力向上および観光人材育成などに取り組んでいる。地域資源の発掘、人材育成では、県内6地域でのタウンミーティングや、物産展、セミナーなどの開催をきっかけとした地域の事業者との連携強化のほか、『うどん』『酒』『アニメ』『花』『スポーツ』などのコンテンツを活用した着地型観光を開発し、販売を準備している。主なターゲットはマーケティング調査の結果において、埼玉に多く訪れている層だ。《国内》では首都圏のファミリーおよび30~60代、女性、《海外》ではリピーター率の高い台湾、タイ、香港だ。現在伸びている層の上積みを目指す」

 ――マーケティングは。

 「現在は、リクルート・じゃらんと組み、入り込み・動態調査、メッシュ調査などを行っている。また、収集したデータからニーズを把握し、蓄積されたビッグデータから効果的な観光地を組み合わせた新たな観光開発や情報戦略などに取り組んでいる。ヒアリングを進める中で発見した地域課題に対しては、アドバイスするなど適宜対応している」

 ――組織の目標は。

 「組織の使命は、(1)埼玉県全体の観光動向を把握し、地域とマーケティングデータや情報の共有、連携を実施し、県内の物産販売促進と観光振興へ寄与すること(2)交流人口の拡大や産業の活性化に向けて、地域や事業者と連携しながら『SAITAMAブランド』の磨き上げを支援し、観光資源の価値を高め広めること(3)県民730万人が自ら、埼玉県の観光や物産品に誇りと愛着を感じ、埼玉の魅力を発信する仕組みを整えること―の三つ。《観光》と《物産》の振興を二本柱とする『稼ぐ地域』として観光地経営の基盤を築き、観光を通じて地域経済の発展につなげる」

 ――KPIは。

 「2021年度に向けた目標は、旅行消費額7千億円(17年度6222億円)、延べ宿泊者数が470万人(同433万1千人)、来訪者満足度が80%(同66%)、リピーター率が80%(同73.4%)。首都圏の人たちの身近なレクリエーションの場としての来訪が多いが、今後はホスピタリティレベルの向上などに取り組み、宿泊観光地として認知度を上げ、宿泊者数を拡大する」

 ――課題や問題点は。

 「まずは、宿泊者数を伸ばすことだ。宿泊施設が少ないこともあるが、情報発信を強化し、現状ある施設への誘客を促進し、観光消費額の単価向上につなげる。2018年10月には旅行業2種の免許を取得した。川越、秩父、長瀞など観光客の多い地域をはじめ、食、酒、体験、アニメ、産業などを交えた『SAITAMAプラチナルート』の商品化を軸に、販売展開を進める。また、県と連携して開催した『宿泊型旅行コンテスト』で参加が多かった提案を推奨ツアーとして売り出すなど、旅行会社とも連携し、宿泊を含めた交流人口の拡大を目指す。外国人客を迎えるに当たっては、キャッシュレス化推進などの受け入れ態勢を盤石なものへとつくり上げていく」

 ――夜観光に力を入れているとか。

 「宿泊を伴う観光客数を伸ばすには、夜観光の活性化は必須だ。県内には夜景スポットが少ない。秩父の雲海や星空観賞など各市町村と共に体験できるプログラムを発掘し、『泊まる』『食べる』『遊べる』ができる仕組みを作る」

 ――財源、人材は。

 「財源は、着地型観光や産品を販売しながら、自主財源を確保していく。当面は県の予算が頼りとなるが、活動拡大への財源を確保する。人材は、地域に精通し連携ができる人材が必要。まだまだ人材は必要で、専門人材もスタッフも増やしていく」

 ――インバウンドは。

 「東京に到着した多くの外国人客が食や自然などの体験やイベント参加を目的に埼玉を訪れている。埼玉へ日帰りで訪れた後、東京へ戻り宿泊する流れを断ち切り、埼玉での宿泊につなげる仕組みを作らなければならない。プロモーションとして、6月に台湾の台北駅構内で開催された『日本の観光・物産博』や日本観光振興協会と連携した観光展などに参加した。ターゲットに対し、観光・施設を明確に紹介し、『宿泊できる埼玉』を意識付けていく」

 ――今後の取り組みは。

 「観光から物産まで、埼玉の魅力を売り出す『彩の国おでかけ百貨店』のコンセプトに基づき、県内の観光推進の中心的役割を担い、戦略に基づいた行動、合意形成に取り組んでいく。DMOが観光の窓口となり、市町村などから情報を収集する。埼玉エリア情報誌『ちょこたび埼玉』やSNSを活用した情報発信を強化する。最近では、『埼玉県の旅行』を推進する動きが各地域でも高まっているが、県民自らがお薦めの観光施設、食の発信や課題抽出、問題提起ができる体制をつくりたい。その中で『埼玉ブランド』をつくり上げ、目的地としての埼玉をつくり上げていきたい」


いわぎし・さとる=日本旅行、浦安市観光コンベンション協会を経て、2012年4月に埼玉県物産観光協会入社。15年4月から現職。

【長木利通】

 

 
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