【私の旅館経営】鶴雅ホールディングス社長 大西雅之氏


大西社長

郷土力ある個性を磨き ”選ばれる施設”目指す

 ――経営の理念は。

 今、観光業界は未曽有の危機に直面している。インバウンドに頼り、バラ色に描いてきた観光の未来図を見直し、われわれの仕事は社会的にいかなる価値があるかを問い直す機会としたい。

 弊社は、「郷土力を磨き、地域と共に成長する百年ブランドを作り上げる。常に、社員が誇りに思い、お客様に愛され、社会から信頼される企業を目指す」を経営理念としている。その行動指針としての鶴雅社訓八条、経営指針として三つの共有価値がある。

 ――これまでの一番の苦難は。

 1987(昭和62)年、JTBから送客停止になった。質より量を追求する中で、お客さまの評価が最低になった結果だ。しかし、振り返ると経営方針を根底から変革するチャンスになり、13年後のJTBのサービス最優秀旅館表彰につながった。食べていける間はなかなか変われないものであり、この苦難が当時の売り上げに倍する設備投資の決断を後押ししてくれた幸運に感謝している。

 ――売り上げ拡大のため今、必要なことは何か。

 弊社の共有価値の一つが「(価格)競争しない価値をもつ」こと。海外資本から民泊まで参入する大観光時代にあって、売り上げを維持拡大するためには、選ばれる施設になることが不可欠。時代のニーズに沿ったリノベーションとソフト改革を緩まず続けることだ。

 弊社では「宿は我々の作品」の考えから、売り上げの6~8%を毎年投資している。「(縄文やアイヌ文化など)郷土力ある個性を磨き、日本のきめ細やかな高品質を追求する」という経営指針が根底にある。

 ――生産性向上のために工夫していることは。

 生産性向上は、突き詰めると宿泊単価の向上に行き着く。コロナ後の世界は一変する可能性があるが、日本の宿泊料金は低すぎる。収益力を向上させ、働き方改革を実現することが結局は近道になる。

 第二の共有価値「システムとしての顧客満足づくり」が重要であり、ISO9001(サービスの標準化)やRPA(PC業務の自動化)を宿泊業に合わせて進化させることが必要だ。

 ――社員教育、社員確保にどう取り組んでいる。

 鶴雅社訓八条で「鶴雅の人財…私達は常に謙虚に学び、改革意欲に溢れる楽しい職場をつくります」と定め、その実現のために中堅社員のグループワークとして「鶴雅塾」を実施している。また、6大学と提携して「鶴雅観光人材養成講座」を開講している。自前のホテルを持つ欧米のホテル学校のように、大学におけるアカデミックな学問とホテル現場の実学を両立させたいというビジョンがあった。21日間の現地研修だが、14年間27回で550人の卒業生の実績がある。コロナ後は雇用環境も大きく変化するだろうが、人材登用のチャンスでもある。

 ――ネット活用などIT化への対応も課題だ。

 RPAを活用し、予約・フロント会計・経理業務の自動化を9施設で実現したが、SEを自社採用することで、現在はさらに15部門でシステム開発が進んでいる。直近では、コロナ対策の全館休業予定数集計表もRPAで管理している。

 RPAの導入で予想を超える時間的効率とストレス軽減効果が出てきている。

 ――新型コロナウイルス感染症の流行で観光も大きな打撃を受けている。

 反転攻勢は秋口になると予想する。しかし、第二波三波の長期化に備え、できる限りの運転資金のストックと雇用調整助成金など支援の有効活用、そして何より社内の士気を保つ経営者の強いマインドが重要と考える。

 復興反転予算は観光1兆3千億円と発表された。これをいかに取り込めるか、地域の連携も重要である。

 ――阿寒湖温泉の地域活性にも取り組んでいる。

 観光立国ショーケースや国立公園満喫プロジェクトへの指定は地域の大きなエネルギーとなっている。夜の森のテーマパーク「カムイルミナ」やアイヌ民族のオリジナルユーカラ舞踊「ロストカムイ」など新たなチャレンジが好評だ。来年のアドベンチャートラベル世界大会に向け、コンテンツの充実や人材の育成にしっかりと取り組んでいく。企業理念に沿い、地域と共に成長し、故郷を世界に通用するリゾートにする夢に向かってまい進したい。

 大西 雅之氏(おおにし・まさゆき)1955年生まれ。東京大学経済学部卒業後、三井信託銀行勤務を経て、81年阿寒グランドホテル入社、89年社長就任。2016年に鶴雅ホールディングス体制のCEO就任。観光ビジョン構想会議委員、アイヌ政策推進会議委員。北海道経済連合会副会長、北海道観光振興機構副会長、JTB旅ホ連本部会長、阿寒DMO理事長を務めるなど観光産業の発展に尽力している。

 
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