【新春特別インタビュー】「日本版DMO」には自主財源確保が重要 セントラルフロリダ大学ローゼン・ホスピタリティ経営学部准教授 原忠之氏


原 忠之氏

マーケティングも課題

団体セールスの経験は役に立たない

 観光を通じての地方創生、地域活性化が全国各地で活発に進められている。その中で政府は、観光地域づくりのかじ取り役となる法人「日本版DMO」の設立を呼び掛け、日本版DMOを中心として観光地域づくりを進めようとしている。日本版DMOはどうすれば成功するのか。国内外の観光計画や観光ファンディングに詳しいセントラルフロリダ大学ローゼン・ホスピタリティ経営学部テニュア付准教授兼ディックポープ観光研究所上席研究員、博士の原忠之氏に聞いた。(聞き手・編集部 板津昌義)

 ――日本の観光立国への歩みが着実に進んでいる。現状をどう見ている。

 「観光立国は観光を輸出産業とすることだ。日本の輸出産業は今、自動車だけはまだ残っているが、家電、重電、化学などいろいろな産業で国際競争力が落ちている。その中で、どう外貨を稼ぐのかという議論の中で出てきたのが観光立国だ。そこを理解していない人がけっこう多いのが残念だ。日本は1970年代前半に当時の西ドイツを超えてGDP世界第2位になった。中国が2位になるまで40年ぐらいの間ずっと外国人を連れてきて外貨を稼ぐ必要がなかったわけだ。15年で言うと輸出額が75兆円、輸入側が78兆円だから3兆円ぐらい赤字だった。輸入で一番大きいのが原油で8兆円ぐらい。17年にインバウンドで稼いだお金は4兆5千億円ぐらい。20年東京オリンピックの時には8兆円近くなる。これが実現できると日本は原油を買うために払っているお金を全部インバウンドで稼げる」

 ――日本では日本版DMOを中心に観光地域づくりを進めている。海外ではDMOとはどういったものか。

 「DMOを分解するとDがデスティネーション。Mがマーケティングという場合とマネージメントという場合があるので二つの解釈がある。Oはオーガニゼーションだ。元々はアメリカではDMOのことは『CVB』(コンベンション&ビジターズ・ビューロー)と言っていた。だが、アメリカ人からすると『ビューロー』という言葉は役所みたいな雰囲気があるから、同じ組織を最近ではDMOと言っている。一般の顧客向けには最近のはやりとしては『ビジット』プラス『地名』、例えば、『ビジットオーランド』『ビジットフロリダ』といった名前を使っている。DMOを直訳すると観光地マーケティング組織だ」

 ――日本版DMOをどう捉えている。

 「日本政策投資銀行がレポート『日本型DMOの形成による観光地域づくりに向けて』を14年2月に作った。これを読んで分かったのは、基本的な部分はしっかり書いているけれど、重要な部分が抜けている。抜けているのは、『ファンディング』と『観光地マーケティング』、それから『人材の問題』をどうするか。アメリカなど世界のDMOと日本のDMOは依然、かなり違う」

 ――なぜファンディングが重要なのか。

 「日本で『DMOは観光協会と何が違うのか』とよく聞かれる。全然違う。一番の違いが、ファンディングだ。ファンディングというのはお金がどこから来ているのかということ。基本的にはアメリカのDMOは、その地方に住んでいる人たちが払っている固定資産税などの税金をベースにした地方政府の一般財源から一銭ももらっていない。ホテル宿泊税など住民に負担をかけないキャッシュフローをつかまえて財源にしている」

 「観光客はその地に住んでいないから固定資産税や給料に対する所得税などを払っていない。税金を払っていないが道路や公共の交通機関などを使う。なぜ遊びに来る人をもっと増やすために私たちが払った貴重な固定資産税や所得税が使われなければいけないのかというのは必ず出る議論だ。ベニスやバルセロナなど観光客が多い地域では過剰観光問題が出る。だが、アメリカで例えばオーランドは人口130万人のところに50倍以上の7100万人の観光客が来ているが、過剰観光問題は全然出ない。重要な要因は、観光客に来てもらうためのマーケティングとDMO組織運営に、地域住民の税金が1円も使われていないからだ」

 「17年1月に内閣府の第1回DMOフォーラムに行ったが、『お金がもらえるのでよく分からないけどDMOに手を上げた』という観光協会の人がたくさんいた。それでは、内閣府からのお金が終わったら持続性は全然ない。だからDMOの運転資金としてぜひとも地方政府と一緒に一般財源以外の自主財源を確保するスキームを考えてほしい」

 ――オーランドでのファンディング、自主財源確保の取り組みを詳しく教えてほしい。

 「オーランドは、アメリカの中で観光客が一番来ている都市だ。人口は京都と同じぐらいの130万人で、観光客は7100万人。2番目のニューヨークシティは観光客が6500万人。オーランドがDMOの資金源をどうしているかというと地域にあるホテル、民泊など宿泊施設全ての宿泊行為から取っている。今、客室数が9万1千室、平均客室単価が100ドル強、それで特別地方税251億円を叩き出している」

 「東京都のホテル客室数はオーランドよりもやや多い10万2千室だが、ホテル税は15年に21億円とオーランドと比較して効率が悪い。東京都の場合は1万円まで無税で、1万円から2万円までが100円、2万円を超えたら200円だ。某米国系最高級チェーン東京ホテルでは今ADR(平均客室単価)が8万円ぐらいで、それに対して東京都は200円の税金を取る。オーランドの場合は全て一律に6%なのでその客室料金に対し4800円を取る。200円と4800円の差が21億円と251億円だ」

 「これは面白い話なのだが、Airbnbがサンフランシスコ市と訴訟をした。最終的にはサンフランシスコ市がそんなうるさいことを言うのなら市内でのAirbnbの営業は全部取り消すぞというぐらいの強気に出た。オーランドが2番目に強気に出た。そうしたら何が起こったかというとAirbnbの予約サイトで、100ドルの民泊ならホテル税が6%、フロリダの州の売上税(日本での消費税)が6.5%だから112.5ドルの決済となるが、これで良ければ次をクリックしてほしいということでのみ予約が成立するようになった。アメリカの場合は事前決済だ。税金は市当局ではなくて、Airbnbが全部代理徴収している。だから税金の徴収漏れはない。東京や京都はアメリカ側から見たら魅力的な都市だ。首長はそれに気がついてAirbnbとサインすればいい」

 ――DMOのマーケティングについても聞きたい。

 「マーケティングはアメリカのDMOと日本の観光協会や日本版DMOとの大きな違いだ。日本の観光協会は今まで日本人の団体セールスなどをやって成功体験を持っている中高年の男性が多いからマーケティングをやっていなかった。また、今までは旅行代理店の販売担当の人に話をして『うちの地域にお客さんを送ってほしい』という営業のやり方だった。旅行を申し込んできた人が男か女か、何歳か、結婚しているか、といった属性情報を集める必要が全然なかったわけだ。それはすなわちセールスだ」

 「マーケティングというのは、申し込んでくるお客さんがどういう興味と期待を持っているのかを考え、それを満たす観光商品(=体験)を紹介することだ。先ほど言ったように観光立国は外貨を稼ぐことだが、日本の観光協会は日本人向けの観光のセールスをしているところがまだ多い。今、インバウンドの団体は中国人以外あまりない。インバウンドの大多数はFITだ。アメリカ人は9割5分以上がFITだ。だから、どうしてここに申し込んできたのか、その人がどういう属性なのかを知らないと今後もっと継続的に観光地に来訪してもらうことはできない」

 ――人材の問題もあると指摘していた。

 「外国人を自分たちの地域に連れてくるためには日本語だけではビジネスがうまくいかない。英語が得意でなくてもいいが、少なくとも頑張って英語でビジネスをするという気概がある人でないとDMOはできない。『そんな人はあまりいない』とよく言われるのだが、いないのであれば、希少価値があるのだから普通の日本人がもらっている給料よりも3割増し、4割増しで募集する。そうしたら今全然、観光業界にいないような中高年、女性や、商社を引退した人、銀行で海外に赴任していた人、日本居住者の外国人などいろいろな人が来る。ウェブで新しいビジネスをどんどんやる気概がある人ならどうぞと、そういう採用をした方が良い」

 「外国人のFIT客に対しては日本人向けの団体セールスの経験はほぼ役に立たない。過去40年間ぐらい旅行会社や市町村の観光課で働いていて成功体験のある人が占めているDMOは基本的にインバウンド客獲得による観光消費支出で地方経済創生を目指すという目的達成にはよほど自己変革しないと成功の可能性は低い。遠隔地、離島も含めた社会人向け継続教育インフラ整備が必要になる」


セントラルフロリダ大学ローゼン・ホスピタリティ経営学部准教授 原 忠之氏

 はら・ただゆき氏 日本興業銀行、外務省を経て、米国コーネル大学ホテル経営学部博士号を取得。米国観光ホスピタリティ経営分野で正規教員職、テニュア(研究者終身身分保障)を持つ唯一の日本人。現在、観光・ホスピタリティ経営学部として全米第1位の規模であるセントラルフロリダ大学ローゼン・ホスピタリティ経営学部の米国学部経営を担当。一橋大学大学院商学研究科特任教授、京都大学経営管理大学院客員教授および、観光庁・観光統計調査委員、内閣府地方創生カレッジ委員、文化庁文化統計調査会議委員、国連世界観光機関(UNWTO)公式コンサルタント、UNESCO文化統計技術諮問委員会委員、国連民間航空機構(ICAO)航空統計諮問委員会委員を兼務。米国フロリダ州オーランド在住。

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