【新春インタビュー】どう生きる コロナ社会の観光業 コングレ社長・経団連観光委員長 武内紀子氏に聞く


武内紀子氏

 ――新型コロナウイルスの影響で観光業は大きなダメージを受けています。

 「まさに直撃です。業界全体で売り上げ、利益が大幅にダウンし、雇用を含め、事業の継続すら危ぶまれています。インバウンドに頼っていたところはその対応を見直さなければならない状況になりました。かつてない深刻な事態です」

 

 ――入国制限もあり、国内に目を向けざるを得ません。

 「もともと日本の観光は国内旅行が主流で、インバウンドが増えたといってもその割合は大きくはありません。コロナ禍で国内回帰し、マイクロツーリズムといった、身近な観光に改めて目を向ける機会にはなったと思います」

 

 ――MICE関連も中止、延期が相次ぎました。

 「大きな痛手です。同時に、開催の在り方も見直しを迫られ、デジタルトランスフォーメーション(DX、ITの活用を通じてビジネスモデルや組織を変革すること)やオンラインなどIT技術を使った開催方法を模索しました。ただ、このタイミングだからこそできることがあるわけで、新たなMICEビジネスの芽が出てきたといえなくもありません。コロナだから仕方ない、と意気消沈していては前に進みません」

 

 ――御社にはどんな影響がありましたか。

 「MICEは集まるのが基本のビジネス。それができないのは何とも歯がゆく、ジレンマですね。いろいろな制約がある中で、急速に増えてきたのがオンライン開催です。当社主催で20年10月に開催した『スポーツビジネスジャパン2020』もオンラインでの実施になりました。当社のMICE施設『コングレスクエア日本橋』からライブ配信し、コンファレンスプログラムは2日間で計24セッションに上りました」

 「運営を担当した日本整形外科学会学術総会では、当初は5月に福岡市の会場で4日間のリアル開催の予定でしたが、感染拡大に伴いオンラインに切り替えました。オンラインでは会期を6~8月に変更し、リアルタイム配信、オンデマンド配信、バーチャル展示会(3D)のほか、参加者である医師の診療に影響しない日程でのeスポーツ企画など、バーチャル空間を通してさまざまなプログラムを実施しました」

 「また、当社と名古屋観光コンベンションビューローが指定管理者を務める名古屋国際会議場で、10月に『吹奏楽エールコンサート2020』をライブ配信しました。この会議場のホールは吹奏楽に打ち込む中高生の聖地といわれている場所で、全国大会の強豪5校が仲間たちに向け演奏によるエールを送り、話題になりました」

 

 ――やりようはあるのですね。

 「オンラインによるバーチャルコンベンションや感染対策を施した会場でのリアルコンベンション、また、両者を組み合わせたハイブリッド型など、ニューノーマル(新常態)に対応したMICEを提案し、乗り切っていきたいと思います」

 

 ――リアルでの開催はやはり難しいですか。

 「9月に千葉・幕張メッセで『ジャパンドローン2020』を日本UAS産業振興協議会と開催しました。コロナ禍では、当社主催初のリアル開催で、どれだけ人が集まるのか心配でしたが、思った以上の参加があり、感染防止対策などしっかり準備をすればやれるんだという自信が持てました。もちろん、参加者の協力、理解があってこそですが」

 

 ――政府の「Go Toトラベルキャンペーン」ですが、感染拡大を受け、批判も出ています。

 「観光業は多くの地域で基幹産業であり、経済全体への波及効果につながると期待されています。一方で、第3波といわれ、感染者が増えている中、専門家の助言を得ながら、政府の責任で適時適切に見直しを行うことは必要だと思います。21年6月までの延長が決まりましたが、この継続は歓迎しています」

 

 ――Go To事業はビジネス出張の宿泊などについて、割引の適用対象から除外しました。

 「運転免許などライセンス取得を目的とした滞在などが除外されるのは、観光の促進という制度の趣旨からすると仕方ないですが、ビジネス出張の促進も経済効果の一助となっており、MICE参加の出張などは、観光のためにそのまま使わせてほしかったですね」

 

 ――コロナ禍でワーケーションなど新たなビジネスに注目が集まっています。

 「テレワークを通じた働き方改革の推進につながり、滞在期間の長期化による地域経済への貢献などの効果があるといわれています。地域と地域の企業は恩恵を受けそうですが、実施する企業にとっては負担増につながるわけで、対価に見合ったメリットを享受できるかが課題の一つです。かみ合ったら利用者を含めて三方良しで、いいプログラムになると思います」

 

 ――武内さんは経団連観光委員長のお1人ですが、経団連でもワーケーション推進に取り組んでいますね。

 「日本観光振興協会、ワーケーション自治体協議会と共に、推進に向けたモデル事業『ワーケーション推進プロジェクト』を実施します。20年度は経団連の会員企業の人事担当者らを対象としたモニターツアーを行い、効果や実施に当たっての課題を抽出します。計画では2泊3日の日程で、6地域を対象に実施する予定です」

 

 ――コロナ禍の終息にはまだ時間がかかりそうです。コロナを前提にした事業活動、いわゆるウィズコロナですが、観光業はどう対応していけばいいのでしょうか。

 「まず安全安心をどう確保するかです。それが保障されないと観光客は足を運んではくれません。地域にはその発信力も問われます。一方で、ワクチンが広く投与されればアフターコロナの時代も見えてきます。20年は目の前のことに対応するだけで手一杯でしたが、21年はアフターコロナを見据えての対応が必要となるでしょう」

 「困難な時期を乗り切るには財源確保が必要です。今は特殊な状況で、自助努力に加え、政府による支援が欠かせません。同時に、コロナ禍でも業績を上げている分野、企業に対し支援を働きかける、クラウドファンディングなども活用されています。もちろん、ウィンウィンが前提ですが、新しい試みへのチャレンジは重要です」

 

 ――21年は延期された東京五輪・パラリンピックが開催されますが、どうみていますか。

 「海外の状況とワクチンがどれだけ普及しているかが鍵になりそう。ウイルスの変異も心配です。ハードな状況は続くという前提で事業活動に取り組むべきですが、無事開催され、成功すれば、インバウンドを含めて、事態の好転が大いに期待されます」

 「先ほどもコメントしましたが、21年はアフターコロナの準備を本格化する年になります。切磋琢磨し、新たなステージに向かって、チャレンジしていく年として明るくとらえたいですね」

 

 ――御社にとって、大きな出来事といえば。

 「21年11月、JR長崎駅前に『出島メッセ長崎』が開業します。当社は長崎市が取り組む施設整備事業に参画し、MICE施設の運営と多くのイベントを通じて、地域の魅力、ブランド力の向上に取り組みます」

【聞き手・内井高弘】

武内紀子氏

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