新春インタビュー「観光復興の行方」 日本観光振興協会 理事長 久保田 穣氏


久保田理事長

経験を生かし安全安心を提供 キーワードは品質と総合力

  ――2021年はどんな年だったか。特に印象に残っていることは。

 「20年同様、コロナで始まり、コロナで終わった年といえる。観光は人の移動がないと成り立たないが、コロナに翻弄(ほんろう)され、厳しい1年だった。波が何度も訪れ、いつ収束するのかと思ったが、ワクチン接種が進み、緊急事態宣言が解除されたのが印象に残っている」

 「ワクチン接種については、地域の旅館・ホテルなど観光事業者が積極的に対応したのも印象的だ。接客業であり、宴会場も持っていることからもともと安心安全に対する意識は高く、観光施設からクラスターが発生していないのがそれを証明している」

 ――宣言は21年10月に解除されたが、その影響は出ているか。

 「週末など観光地はにぎわいを見せつつあるが、日帰りや近場などごく一部の場所にすぎない。長距離は戻っておらず、ダイナミックスさやボリューム感に欠ける」

 ――日観振としてどんな事業展開を。

 「その前に、Go Toトラベルを巡っては観光業に批判の目が向けられた。観光立国の取り組みなどを通じて、観光に対する国民の理解は深まったと思っていたが、そうではなかったと感じた。観光の意義を広く世の中に知ってもらう活動の必要性を改めて認識した次第だ」
 
 「そうしたことを踏まえ、政策提言や要望書の提出などを行った。まず、3月に『日本の観光再生宣言』を発し、6月には『ワクチン接種に関する観光産業からの緊急アピール』を発表。また、8月には22年度概算要求に関する要望を出し、10月には斉藤鉄夫国土交通相に対し『ワクチン接種の進展に伴う観光再起動に向けた緊急要望』を行った。業界の意見を取りまとめ、各方面に働きかけていくのは日観振の仕事であり、今後も積極的に行っていく」

 「経済界との連携も強めた。コロナ禍で働き方を見直そうという動きに対応し、テレワークの普及を見据え、ワーケーションの推進に取り組む一方、危機管理体制の在り方なども探った」

 ――コロナ禍は収束に向かうと思われたが、変異株「オミクロン」が流行の兆しを見せている。22年はどんな年になるだろうか。

 「先行きは見通しづらく、コロナと共生するしかない。これまで培ってきた経験を生かし、安全安心な観光を提供していくことを考えるべきだ」

 「11月29日に岸田内閣総理大臣に会い、『緊急要望』としてGo Toトラベルの一刻も早い再開と継続的な支援を求めた。観光事業者は待ったなしの状況にある。年末年始の状況を見たうえで再開されることになりそうだが、できるだけ早く再開してほしい」

 ――このような状況ではインバウンド、海外旅行の再開は当面厳しいかもしれない。必然、国内観光が中心となる。

 「コロナ禍で近場の旅行、いわゆるマイクロツーリズムに関心が集まった。自分が住む地域に目を向けるいい機会になったが、観光はそもそもダイナミックに活動し、そこで新たな経験、体験を通じて人間としての幅を広げるのが醍醐味(だいごみ)、役割だ。ワクチン・検査パッケージなどを活用し、早く長距離旅行もできるようになってほしい」

 「観光客を満足させるには観光の質を上げることが何より大事だ。旅館・ホテルに限らず、事業者全体で考える必要がある。インバウンドはいずれ戻って来るだろうが、今より品質が向上すれば国際競争力にプラスになる。これは国内観光にも通じること。地域全体で観光に関わる品質を上げていくことが重要だ。事業者の努力に加え、国の支援も欠かせない。最大のテーマではないか」

 ――日観振は今後どんな事業展開を。

 「コロナ禍で人々の移動が制限され、観光業は大きな打撃を受けた。感染拡大防止と社会経済活動をどう両立させるかは大きな課題であり、観光業界も無関心ではいられない。地域と観光業界、医療業界が一体となって安心安全な観光地域づくりはできないものかと考え、21年12月に医療関係者らを招いてシンポジウムを開いた」

 ――観光と医療が手を結ぶのはこれまでなかったのでは。

 「初めての試みだ。当日は沖縄県立中部病院の感染症内科・地域ケア科の高山義浩副部長に講演していただいたほか、グリーン・ゾーン認証で効果を上げている山梨県知事らによるパネル討論も行った。医療関係者との関係を強めるためにも勉強会などを開いていきたい」

 ――観光業界最大のイベント「ツーリズムEXPO」については。

 「21年は11月に大阪で開催予定だったが、コロナ禍で中止となった。ツーリズムの意義を発信するイベントであり、22年は9月22~25日に東京ビッグサイトでの開催を予定している。ウィズ・アフターコロナを見据え、(1)ニューノーマル時代の新しい旅のかたちの体験(2)旅の力で地域振興に貢献(3)新しい国際交流のかたちを日本から発信(4)持続可能な観光振興の推進―をテーマに掲げている。コロナも収束していることを願うばかりだ」

 「23年は再度大阪で開催し、24年は東京、そして25年は『大阪・関西万博』を見据え、大阪で開催する。万博はビッグイベントであり、ツーリズム産業にとっても意義をアピールする絶好の機会となる」

 ――ウィズ・アフターコロナ時代の観光はどうあるべきだと。

 「観光はすそ野が広く総合産業だ。総合力を高めるには個々のパーツの質を上げる必要がある。品質、総合力をキーワードとして挙げたい」

【聞き手・内井高弘】

久保田理事長

 

 
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