福島第1原子力発電所の事故で電力不足が懸念されている。東京電力管内の旅館・ホテルやレジャー施設などは計画停電の影響を受け、営業に大きな支障をきたした苦い記憶があるだけに、「需要が増えるこれからが心配だ」との声も少なくない。一方で、節電対策や省エネルギーに目を向ける業者もいる。旅館の取り組みのほか、観光関連団体と専門家による節電アドバイスをまとめた。
千葉県鴨川市の海辺の宿恵比寿は「看板電灯の点灯時間短縮とタイマー調整」「部屋の冷蔵庫、暖房便座の電源をこまめに切る」「バックスペースの電気を昼間は消す」「自動販売機の稼働台数を減らす」「外部電灯を早めに消す」ことで省エネを実践。
新潟県瀬波温泉の夕映えの宿汐美荘は、宿泊客用エレベーター3基のうち1基を停止。2カ所ある女性用露天風呂と源泉貸切浴場はともに1カ所をクローズした。このほか「空室となっている部屋の冷蔵庫と便座のコンセントを外す」「事務所、業務用バック動線照明の電力を目安感覚で30%削減」などに取り組んでいる。
同県松之山温泉のひなの宿千歳は、温泉熱交換による給湯の昇温や、パブリックトイレの電灯の人感センサーの導入などを実践。客室の冷暖房温度設定は、従来の風量3段階切り替えから、ファンコイルコントローラーの設置で風量を自動コントロールしている。
被災地に近い東北地方の旅館は、LED電球への切り替えを検討していたところ震災が発生。設備投資は先送りし、「今のところはマメに節電をするしかない」。
電力事情がひっ迫していない北海道の旅館は「災害地のことを考えると煌々こうこうと電気を点けてはどうかとの気分だが、自粛と同じで『小さな正義』が復興の足かせになる部分もあり、ほどほどにというのが正直な気分」と複雑な胸の内を語る。同館では宿泊客がチェックインする前の時間帯の節電を従来より厳しく行い、消費電力の10〜15%削減を目指すという。
中部地方の旅館は「白熱球照明を蛍光灯、LED照明に切り替え」「電力のデマンドコントロールシステムの導入」「動力装置をインバーター制御で管理。動力装置を適正スペックのものに代替」「経済産業省や環境省の省エネルギー補助事業への取り組み」の4点を実践している。
同じ中部地方の旅館は、コージェネレーションシステムの導入で、全電力使用量の30%を自家発電でまかなっていたが、重油の高騰で現在は夏季の使用ピーク時の使用量カットに活用しているという。
大分県別府温泉のホテルニューツルタは、宿泊客がいない場所での消灯や、LED電球への段階的な切り替え、バック部門の蛍光灯などの間引きに取り組んでいる。